言の笹舟 web小説レビューサイト

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僕はエルフの血を引いている。 「僕と主人の1-2」



 ――二十四時間営業の宿屋兼食事処兼酒場『犀の目』。

 迷宮都市ガンデラフェニクスにひしめいている冒険者向けの施設の一つ。
 急斜面を昇ったところの、ちょっと立地条件の悪い土地に建てられている藍色の三角屋根を目印としている宿だ。
 ほとんど一見さんのお客さんはいなく、そして、宿に泊まるには紹介を受けてこないとダメという決まりになっているために、食事と酒目当てにやってくるのも常連さんばかりの隠れた名店ってやつだった。僕は六歳くらいのころからこちらにお世話になっている。テノの父親――カノンさんの知人の経営しているところなのだ。

 こういうところによく植えられている観賞用の草木と料理に使えるハーブ等のあるエリア、柔軟運動をできるように敷き詰められている芝生のエリア、素振りなどをできる土のエリア。この三種類の用途別に特化している土地を全体的には見事に調和させている庭を持ち、三階建ての本館と二階建ての別館がある、おそらく規模的に言うならば上位に食い込むほどの設備となっている。
 二名くらいなら余裕に泊まれる部屋は、本館に32、別館に40、さらに別館には従業員用の寮や倉庫に20ある。
 大半は長期滞在者なので、宿屋というよりは寮と呼んだほうのいい営業内容になっている。
 けど、寮ということにしちゃっていると家賃未払いのまま行方不明になったお客さんのでたとき、荷物などを処分するのに必要になる法的手続きが増えるため、そういうことのない宿にしているらしい。宿なら、支払いの遅れたその日に荷物を勝手に処分することが許されているのだ。迷宮の死亡者は正確に記憶されているものの、全体的に治安の悪いここじゃあ行方不明者なんてのは珍しくないのでそうなっている。
 
(はぁ。考えれば考えると冒険者なんて嫌になってくるなぁ。
 まあテノのために全力を尽くすけどさ…………じゃないと死ぬし)

 こう我が身になっていると、冒険者たちの多くは刹那的に生きていることに納得できてしまってくる。
 貯蓄とかそういうことを考えていないバカなのか、宵越しの銭は持たねぇとばかりに激しい夜遊びをする連中ばっかりなことに理解を示してしまう。いや、馬鹿にしていることに違いはないんだけど。まぁ、理解のできないバカよりかは理解できるバカって思われているほうがバカにされるほうだって気分がいいだろう。バカだし。
 そういうバカだらけに合わせ、宿は歓楽街の近くに建てられているのが普通だ。

 なのに、『犀の目』は住宅街近辺の落ち着いた雰囲気の中にあることを売りにしている変わり種なのだ。
 冒険者とひとくくりにまとめようと実際のところの顔ぶれは多種多様の十人十色。
 ダンジョンの外ぐらいゆっくりと緊張せずに暮らしたいという人が一定数いることに何の不思議があるだろうか。
 ここは喧嘩禁止・商売女の連れ込み禁止などといったルールを敷くことでそういう人たちのニーズに応えているの隠れた名店なのだ。







 ……で、そういうニーズに応えていった果てに僕やカルカナといった子供を従業員にするという今はあるわけで。
 さらには『犀の目』のスタッフの八割は15歳以下という驚異の平均年齢という数値が出てきちゃう。

 流石に低年齢層すぎるとは思うけどまぁそういうお店だし。

 簡単に言っちゃうと、故郷に幼い家族を残してきた冒険者たちを狙い撃ちしているというわけだ。
 従業員は全員教育はされているものの、労働時間以外はお客さんたちの望むかぎりは弟や妹のように接することが許されている。正確には、そういったように装ったコミュニケーションをとるという暗黙の了解があったりするのだ。そうやって、自分の分の食事と飲み物を食堂で奢ってもらい、店の売り上げに貢献するという役割を担っている。
 僕みたいにお酒に強い種族の場合は、飲みに付き合っていい気分にさせて、高いお酒を注文するように誘導していったりする。

 この流れは、マスターの地元にあったという酒場の経営方法をアレンジしたものらしい。
 意外に思えるが、この手法は慣れてくると子供だろうと食っていくのに困らなくなってくるのだ。

 冒険者たちだって馬鹿じゃなく、そういった子供の浅知恵みたいなサービスは見抜いている。
 見抜いたうえで、納得し、寄付じみている行動をとっているのだ。

 その理由の一つは、元貴族などの教育を受けてきたものにある弱者は助けなければならないという「高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)」に基づいているものなんだけど、かといって農民出身の冒険者は恵んてくれないかというとそんなことはない。気のいい人は豪快に奢ってくれたりする。

 それに、そういった貧しい環境にあった冒険者の中には年下の兄弟が口減らしに売られていくのを見送るしかなかったという経歴を持った者がけっこういる。
 どんなに実力を高めていきゴールドを集めていっても埋まることはない、心の穴。
 だからこそ、今の自分の稼ぎが子供のスタッフを食べさせているのだと思うことは彼らの救いとなりえるらしい。
 『犀の目』の宿屋の設備は中級程度。
 なのに高級宿屋に匹敵する宿泊料を支払ってもらえるのはそういう理由があるからだった。


 あと、子供を従業員にしているっていうのは庇護欲を誘うっていうのと別の意味合いだって持っている。
 従業員に警戒しなくて済むということをあげられるようになるのだ。
 この街は、冒険者からドロップアウトして街の仕事に就いているものが多くて、中には道端の屋台で鶏肉焼いている人間が高ランクだったりと油断ならないことが珍しくない。驚くぐらいのことならましで、楽勝と思って喧嘩売ったら格上の相手で、二度と歩くことのかなわない体にされてしまったという話を「またか」の一言で片づけられてしまう治安の悪いところ。
 基本的にLvの恩恵はスピリッツに対してのみなので、一見ガリガリに見える人がとんでもない怪力だとしても不思議ではない。
 道端に立っている花売り女相手にいざってとき力負けして装備からなにから全てを奪われたとかの、ガンデラフェニクス特有の犯罪が横行していたりするし。
 ……エルフ耳なんていう目立つ容姿をしていなかったら一度やってみたいけど。
 そういった一般人に紛れ込む実力者を過敏に警戒してしまうたちの人っていうのもうちの客層に加わっている。

 さらには、子供のスタッフに危害を加えられることのないよう、宿泊客は紹介状を持っている人間に限られているため、冒険者同士の乱闘騒ぎが起きにくくなっているっていうのもある。まぁ、そういうのは高級宿屋ならどこにいってもそうなのかもしれないけど。子供をスタッフにしていることとあいまって、この宿の治安はかなりいいほうになっているのだ。

 体が資本の冒険者はつまらないことで怪我をしたくない。
 だから、揉め事の発生しにくいということき荒事を売りに冒険者たちにも十分魅力的な要素となりえる。


 この経営方針はスタッフにとっても利益が大きい。
 迷宮探索は収入を安定していない分、儲かるときは儲かるためにそういうときは多額のチップを恵んでもらえる。

 そして、冒険者の気まぐれによってはその人の技能を教えてもらえることがあるのだ。
 僕なんかは積極的にそういう指導を受けられるようにしていったし。
 あるおじいちゃんの騎士に徹底的にナイフの扱い方を教わったのは護身術的にいい経験になったし、エルフにはないよく考え込まれた攻撃系の精霊魔法を人間の精霊使いに見せてもらえたことだってある。じゃなければ、僕なんかみたいな美少年はとっくにゴロツキにかどわかされていたことだろう。まぁ、それでそこそこ強くなったから、従業員に安心できる弱さを求めて泊まりにきているお客さんと接しられなくなったりしたけど、トータル的にはかなりのプラスになっている。

 そういった戦闘訓練を受けてきていなきゃ、今頃はもっとダンジョンに潜ることに恐怖を抱いていたんだと思う。
 たとえテノの笑顔に癒されようと死の恐怖というのは耐え難いものだから。
 けど、低階層にいるうちは油断しなければ生き延びれるという確信を持っているからこそ冷静にいることができている。

 ここのシステムにはいくら感謝しても足りないなー。








「よォ。待っていたぜェ、ルーゼ」

 ずしんと腹に響く、独特の重低音をもったなまりのある声でマスターはにやっと笑った。
 いつものノーネクタイのシャツに黒いスーツという格好だった。
 で、これまたいつもと変わることのない強面だった。

「遅くなってすみません、マスター。お呼びとうかがいましたがどういうご用件でしょうか?」

 初対面の子供の九割に泣かれて、僕なんかは初対面のときモンスターと思い込んで殺しにかかった相手に頭をさげる。

 マスターはくすんだ灰色と濃い黄色のまだらになっている肌をしている。
 この色合いはドーテヌ族の特徴なのだ。
 サイの獣人と揶揄されることのある種族はサイらしい角こそは生えていないものの非常に髪質は固く、肌は野菜を卸せるほどに頑強だ。
 戦闘に対するポテンシャルは高いのに性格は温厚、自衛のため以外には滅多に戦うことはない。
 ……のはずなのに、マスターは突然変異種だというのか、冒険者をやっていたくらい荒っぽかったという。
 故にドロップアウト組に入るとはいえ中堅くらいにはいっていたのではないのだろうか。ときたま、凄腕の戦士とかが泊まりにくることもあるけどどんな人よりも起こったときのマスターのほうが威圧感は凄まじいし。

「用といやァ用なんだがよォ。…………ここで話すようなことでもねェか」

 マスターはカウンターを他の子に任せるとつかつかと歩いてきて。
 ぐわっと襟首を掴んで、そのまま持ちあげられてしまった。

「あ、あの? マスター?」

「黙っとけ」

 いつになくイラついた様子の荒っぽい動作。
 そのまま大股でマスターは二階に上がっていき自分の部屋の扉をあけ、置いてある大型のベッドに僕を放り投げた。
 僕はスプリングのきいていない寝台に足をつけないように着地して、そのまま腰かける。
 マスターも引きずるように椅子を手繰り寄せると座った。

 そして。

「――――なァ、ルーゼ。自分んとこの坊主がまったく相談することなく冒険者になることを決めやがった場合よォ、何発くらい殴るのが妥当だと思う? 思いやがるゥ?」

 僕がどうやって話そうかと迷っていたことが知られてしまっていることを、ボキボキ鳴らされる拳に、ようやく悟ったのだった。




 
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