言の笹舟 web小説レビューサイト

 ここでは私の趣味嗜好を基準にネット小説をご紹介させてもらってます。
人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



マイスタイル・オンライン 5 現代の武士と火の申し子とのフラグ



 セバスチャンとのチュートリアルを終え、俺は"訓練場"の一つである名もなき草原フィールドに移転してもらった。
 オリジナルスキル開発用の設備には十数種類のフィールドを用意されていて、火山の麓に浜辺、ジャングルに砂漠とあって、さらにモンスターが湧くか湧かないかを選択できるようだった。俺は、風を試したかったので何のひねりもなく草原にしておいたが。ちなみにここのモンスターを倒したってドロップがないだけではなく一切経験値が手に入らないらしい。マテリアルだけは使えば経験値は溜められるそうだけど。
 そして、俺は草薫る大地に舞い降りて――

「なっ……避けろぉぉぉぉぉ!」

 ――視界を真っ赤に染める激痛に転げまくることになった。














「……すまん。怪我をさせてしまってほんとうに悪かったと思っている」
「いや、流石にあのタイミングは明らかに事故なんだし、そんなに謝らなくたっていいって」
「そういうわけにはいかねーよ。ほら、タク、お前も謝っておけよ」
「む、そうだな。まことに申し訳ない――ついてはこれを受け取ってもらえないか」
「俺からも渡しとくわー」

 ついさっき使用することになった治療ポーションが5本とあとは関係のない生命力回復ポーションと精神力回復ポーションがずらりと地面に並べられる。
 けど……受け取る気にはなれなかった。

 いったいなにがおこったのか説明するとこうなる。
 草原フィールドに先にきていた男性プレイヤーたち二人(カルビーとタクというらしい)は話し合い、お互いのオリジナルスキルの感覚を確かめるべく、模擬戦をしていたとか。で、ヒートアップしてきて、カルビーのほうが今のマテリアルレベルでは限界ぎりぎりの大技を……ファイヤーボールというしかないスキルを放ったところにちょうど俺がログインしてきたとか。
 微妙なところだ。
 これで「俺たちは悪くない」と言い張られでもしたらイラっとくるけど、逆に、こんな風に謝られまくると困惑しちしまう状況だ。
 正直のところ、使ってしまった治療ポーション一本分を弁償してもらってあとは慰謝料代わりにもう一本くらい貰えれれば、こちらとしては文句はないんだが。

 訓練場という公共の場所にて騒いでいたカルビーとタクは悪いという意見はあるだろうけど、ここは、攻撃スキルとかを好き放題に試すための場所だからなー。
 この場所では好きなだけスキルを開発できる。ただし、その開発したオリジナルスキルを持ち帰るにはSP(スキルポイント)を一つにつき1消費しなければダメっていうのがルールだ。オリジナルスキルを使いまくれる訓練場はまるで超能力者に生まれ変わったみたいに能力をなんにでも使えるからβ版のときから人気の高いスポットだったりする。冒険者組合からここに繋がっているワープ魔法陣があるので、友達とつれそってきて、ネタスキルやら漫画に出てくる魔法やらを再現して盛り上がるっていう遊び方もされてきたらしい。一応、レベル上げしにくいスキルをとってしまったプレイヤー用の救済処置的な場所でもあるらしいが。
 外では、自分の選択したオリジナルスキルとしてしかマテリアルの能力を使えないので、訓練場では念入りにSPと引き換えにするスキルを試行錯誤する必要がある。
 そのことを考えると模擬戦という手っ取り早いことをして感覚を確かめていた二人を責めるわけにもいかない。
 というか俺もやりたいからなー、模擬戦。

「まぁ、悪いのはセバスチャンというか運営っていうことでこの話はおしまいにしようぜ……って、あれ、誰かGMコールした? この件についてセバスチャンから連絡きてるけど」

 さくっと話を終わらせようとしたときウィンドウが立ち上がってメールがきていることに気付いた。
 確認してみるとカルビーは「やべっ」と青ざめていて、タクは無言で首を振り、どうやら二人とも心当たりはなさそうだった。

「なんだろ? ふむふむ……なるほど、やっぱ運営のミスっていうかたちでの謝罪だな。だからこのポーションはいいよ。慰謝料として1ダースずつの3セット貰えたし。そっちのほうにも3本ずつ送られているようだから確認してみたらどう?」
「マジで。おぉう、なんか増えてる!」
「たしかに届いているな。しかし、それでは俺たちの気が済まないからできれば受け取ってもらえないだろうか」

 そのタクのほうは運命のジャッジにまだ納得していないようだった。自分にも厳しいのだろう。

「じゃあ、詫び代わりってことでマテリアルの情報交換しないか、俺のも教えるから。ついでに模擬戦を俺ともしてくれると嬉しい。あっ、俺の名前は蜜柑な。蜜柑」
「おーいいじゃんいいじゃん。スターなんちゃらなんていう新要素あるから他のやつらのが気になっていたんだよ。俺のことは気軽にカルビーって呼んでくれ」
「私のことはタクと。……そうだな、今はまだ手の内を隠すことよりも情報を仕入れることを優先する段階。それで許してくれるというのはありがたい話だ」

 表情豊かでリアクションが派手な赤毛のツンツン頭のどこの少年コミック主人公っていうのがカルビー、黒髪黒目の長身のなんというか和風の武士っぽいのがタクだ。
 俺たちは、3人あぐらになって座り込み、話し込むことにした。

「そういえば俺はβ版のほうには縁はなかったんだが、カルビーとタクはどうなんだ?」
「俺は今日からだからすっげぇ楽しみにしてきたんだ! もう眠れなかったね!!」
「筐体がサポートしてくれるとはいえ寝不足は体に毒だぞ……私は経験者なのだが、リアルの都合のため後半からの参加になってしまってな。ゲーム内時間で、ラスト3日間しかログインしていない。他のプレイヤーとはレベル差が開いてしまっていたから対人戦はさきほどのカルビーとのが初となる。戦績は二勝二敗と引き分けになったな」
「あれはなんでかっていうと痛みの差だよな。俺は魔法使いタイプだから一方的に遠隔攻撃していくんだけど、タクに勝てたときは、ファイヤーボールがかすった痛みで集中乱してしまって次のを避けられなくなるっていう展開だったもん。完全に回避されながら近づかれたら俺の負けだけど」
「HPと幻痛(ファントムペイン)の問題か。たしかに他のゲームで慣れていたはずなのにさっきのは痛かった」

 直撃をくらった顔の右半分をさすりながら痛みのことを思い出す。
 潰れた視界に直前にみた真っ赤な炎が焼き付いて、ジンジンと激痛が続いて、地面を転がって誤魔化すしかなかった。
 あれほどの痛みでは、あわててポーションをかけなかったら気絶していたかもしれない。

 マイスタイルではHP制を採用しているので、たとえば右腕が切断されるようなダメージを喰らうことになったってHPは減るけど、飛んで行った右腕のポリゴンが崩壊していき、元の場所にあらたに右腕が再構成されることになる。ただし、痛みは、幻痛(ファントムペイン)はその怪我したところに発生するというシステムになっている。
 ちなみに首をはねられただけで即死にはならないけど、急所攻撃ということでダメージが跳ね上がるためにまず死ぬことになる。
 まぁ、スキルやアイテムによってダメージを軽減する方法はいくらでもあるものだけど。
 気になるのは、レベル1にすぎないカルビーの攻撃であそこまでの幻痛が発生してしまったことだ。

「いや、あれはおそらく火属性特有の状態異常"火傷"による痛みなのだろう」
「えっ……そうなの?」
「激痛があまりに継続することに疑問に思い、ためしにカルビーの左腕を全力で打ってみたもののそのときは痛がっていたが、すぐに立ち直られた。減ったHPを聞いてみたが、私がかすっただけのときよりはるかに削られていた。なのに、私のほうがより痛むというのはおかしい。ということは、β版のときはHPだけが継続的に減る状態異常だった"火傷"が幻痛も伴うように修正されたということなのだろう」
「げー……俺って人体実験されていたのかよ。まー、確かに痛いっちゃ痛かったけど、木刀でぶんなぐられた痛みは一瞬だったな」

 これは攻略サイトで見覚えてきた状態異常を全部再チェックする必要がありそうだな。
 しかし、こういう一緒に検証してくれる知り合いがいるってのはいいな。
 あとでフレンド申請しとくか。

「しっかし、そうなると炎は使いにくいな。俺のスターは火属性特化なんだけどどうすっかなー」
「いきなりだったから驚いたけど、慣れれない範囲じゃなさそうだから別にいんじゃない? (別ゲームで)大ムカデにばりばり食われたときよりはるかにマシだったよ」
「蜜柑のは比較対象はひどいが、覚悟を決めれば耐えきれないということは確かだ。さきほどのファイヤーボールは蜜柑を巻き込んでいなければ、剣で叩き落として、真正面から突破するつもりだったぞ」

 魔法スキルに切りかかるって……真面目に言ってのけているタクは何者なんだろうか。
 漫画のキャラはよくやっているけど、VRで実際にやってみるとよっぽどの勇気がないとできない荒業のはずなんだけど。
 まぁ、カルビーを説得できたようでよかった。
 せっかくのスターマテリアルが有効活用されないのはなんか他人のことなのに見ていて悲しいものがある。

「まっ、ここまでいったんだからもう全部言っとくか。俺のスターマテリアルは≪烈火≫だ! 火属性スキルの威力を大幅に引き上げてくれるって言ってたな。マテリアル構成のほうは≪火:魔力≫と≪魔力≫――次のMPで≪魔力:火≫にするつもりの火力重視だぜ」
「ならば私も自己紹介といこうか。私の一番星は≪剛剣≫という。剣術スキルの攻撃力を引き上げてくれるものだ。成長させていけば、防御力貫通などの特性を持つようだがいまのところはただの攻撃力UPでしかない。構成は、≪剣:力≫と≪力:剣≫――カルビーと同じく破壊力重視だ」

 なんという奇運なのだろうか。
 二人とも、俺のようにメインとサブが逆転している構成を持っているかするつもりらしい。
 なんかこういう偶然にはワクワクしてくるものがある。

「最後は俺になったか。マテリアル構成は恥ずかしながら≪体術:風≫を言い間違えてしまって≪風:体術≫を貰ってしまって、結局、≪風:体術≫と≪体術:風≫っていう構成だな。で、スターマテリアルは≪共鳴≫というやつだ。同名のマテリアルがある場合に影響するらしいが……ちょっとタク、実験に手伝ってもらえないか?」
「別にかまわないがどういうものだ?」
「≪力:剣≫のほうに属するスキルは持ってる? あるなら、力のマテリアル二つの経験値をそれぞれ覚えてから使ってみてくれないかな」

 そうお願いすると、タクはウィンドウを開いて「今、120と215だな」と読み上げてくれた。
 ちなみにマテリアルの経験値や次にレベルアップするまでの数値はステータス画面からマテリアル詳細画面を選択することで確認できるようになっている。
 タクは立ち上がると木刀を大上段に構えた。

「このスキルは、剣術の構えをとったあと三秒間タメることで次の一撃の威力をブーストする。『烈火の構え』と名付けさせてもらった」
「だったら三秒間にこだわらないで、剣術の構えをとったままタメればタメるほど次の威力が上がっていくっていうようにしたほうが自由度が高いと思うけど……」
「それは思いつかなかったな、参考にさせてもらおう。では、ゆくぞ――噴っ!」

 裂帛の気合いと風切り音が重なる、見事な一撃だった。
 これはスキルによるブーストうんぬんは関係なしに喰らいたいものではない。武術の経験がありそうだ。
 最近はVR技術を積極的に活用した実戦稽古を行う道場が増えてきているからどこに経験者がいたとしたっておかしくはない。
 ゲームのためのスキルアップに道場に通うというツワモノもいるとかだし。

「123と、こっちは変化なく215だな」
「ごめん――悪いけどもう一回だけお願いしていい? 最低5は上がらないと検証できないんだ」

 俺に頼みごとをタクは快く引き受けてくれた。カッコいいやつだ。

「ふむ――126と215だが、これで、何かわかったのか?」
「うん、まぁ、俺の≪共鳴≫のスターマテリアルの効果がだいだいよかってきたよ。どうやら、この同名のマテリアルに5分の1の経験値をもたらしているのが≪共鳴≫みたいだ」
「へぇ……って、蜜柑は別にこっちにきてからなんのスキルも使ってないじゃん」
「別の訓練場から移ってきたのか?」
「? いや、ただ座って話し込んでいるだけじゃ時間がもったいないからてきとーに『そよ風パンチ』っていう≪風:体術≫のスキルを作って、そこらの虚空に連打しといただけだよ」

 ちなみに『そよ風パンチ』っていうのは、風が吹いているとき風が吹いている方向に拳大の風船っぽいものををぶつける威力最弱のヘボスキルだ。その最大のメリットは消費精神力の少なさ。いくら連発したって時間回復する精神力のほうが多いけど、一発ごとにマテリアル経験値は下限の1ずつ入っていく。チリも積もれば山になる、ってことで、おかげてもう≪風8:体術8≫にまで成長しているのだ。
 こういうのを公式チートという。
 まぁ、連打していたことを二人に言った瞬間にセバスチャンから「マテリアル経験値に見えないけど小数点以下が存在するように修正しました」っていう内容のメールが届いたけど。
 下限が1ではなくなったのか、『そよ風パンチ』を何十発と放ってようやく1の経験値になるようになったけど。
 こういう仕様の穴を突いた行為も含めてスタートダッシュと言うのだから何の問題もない。

「蜜柑は話しながらそんなことをしていたのか?」
「すっごいなー、蜜柑は。ウィンドウ操作しているようには全然見えなかったぜ!?」
「難易度高めのゲームに慣れてくるとこのくらいの思念操作は当たり前になってくるからなー。戦闘中にいちいちウィンドウを見ながら操作していたら死ぬから、いつのまにか、皆が今見ているものとウィンドウを並べて表示させて操作することができるようになってた…………最初のうちは頭が混乱してくるけどほんとただの慣れだね」

 そう、このくらいの二重思考程度は妹もたやすくこなすからアドバンテージにはなりっこない。
 あるゲームではこれができてようやく一人前と呼ばれるけど、廃人でもなく上級者でもない、ただの一人前扱いになる程度の技能なのだ。
 探せばできるっていう人がすぐ見つかるくらいの小技だ。

「それで、俺が使っていた『そよ風パンチ』は≪風:体術≫のスキルで、≪体術:風≫のほうのオリジナルスキルはまだ作ってすらいないんだけどさ、そっちのほうにもちょびっとだけ経験値が入っているんだよ。計算してみたら、≪風:体術≫のちょうど5分の1だけ。たぶんこれが≪共鳴≫のスターマテリアルの効果なんだと思うよ」

 たぶんきっとそれは副産物にすぎないのだろうけど……まぁ、そこまで馬鹿正直に言うことはないか。
 俺はもうそろそろ模擬戦しようかと――不思議と微妙な目で見てくる二人を誘うのだった。




 
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