言の笹舟 web小説レビューサイト

 ここでは私の趣味嗜好を基準にネット小説をご紹介させてもらってます。
人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



マイスタイル・オンライン 2 これもまた運命の導き?



 朝食のとき、母親にいつものように夏休みの大半を筐体の中で過ごすことを告げると笑って容認された。
 母は母でまたなにか趣味に時間を費やすのだろう。
 家事などは任せようと思えばすべてロボットがやってくれるから問題はない。

 二十年前に画期的な人工知能が発表されてから世界は変わっていった。
 民衆に広めないで支配層によって独占しようとした国、兵器に搭載することで全世界に無言の圧力をかけられるようになった国、導入するだけの資本力がなかった国、資源を奪われるだけの国。
 日本の場合は、民間に広く流通されてありとあらゆる家電に人工頭脳『セバスチャン』を搭載するようになった。
 年月を重ねるごとに工場などに働いている人はロボットにとってかわっていき、人々は働かずにして裕福になっていった。
 そうなってくれると娯楽分野は発達していき、『セバスチャン』に運営してもらうVRMMOは大流行することになる。

 ゲームとは人生である、とは誰の言葉だったか。








 いつからなのか、ゲームは爽快感やストレスフリーを売り文句としたものは売れなくなって、動き回ると疲れを感じてしまったりダメージがあると痛みを覚えるという苦労と困難はあるけど達成感のあるシステムを求めるようになっていった。今ではリアルそのものの仮想空間において農業生活を営む老人夫婦は珍しくなく、大航海時代を生き抜くサラリーマン風のゲーマーや、電脳空間上の店舗経営に生きがいを感じている大人などもごく普通に存在している。そして、ファンタジーにゲーム的システムを導入したVRMMORPGの中で暮らしている人間だってかなりの数に昇っている。
 まるで異世界にトリップしてしまったかのような感覚を体感できるVR技術と、その間、健康を維持をしてくれる(望めば筋肉をつけたりダイエットしておくことも可能になる)筐体があるために、二十四時間どころか一カ月くらいは続けてログインできるようになっているために、もはや電脳空間は現実の一部となってしまっているのだ。
 新作の『Freestyle Online』においては時間の流れを十倍に加速させられるようになっているらしいので、夏休みの90日間をフルに用いると二年半くらいは遊べることになっている。
 こうなってくると高校生活三年間に匹敵する期間だ。
 できれば、期待を裏切らない、退屈させないでくれる世界であればいいのだけど。






 キャラメイクの最初に求められたのはプレイヤーネームだった。
 俺は妹の苺にあわせて『蜜柑』と名乗ることにする。
 果物系統のなかでは一番気に入っている。
 妹のほうは、俺の本名にあわせたネームにしているといういつのまにかできていた習慣だった。

 容姿のほうはちょっとコンプレックスのある低身長のままチビにしておく。
 身長は弄れるけど、やっぱ現実の肉体を変えすぎると脳が混乱するのか低い天井に頭をぶつけてしまったり、走るくらいならどうにかなってもバク転とかのトリッキーな動きをするときにはどうしても影響が出てしまう。モンスターとの戦闘のことを考えると、リーチが伸びることをふまえたってデメリットのほうが大きくなってしまうのだ。
 他はそのままにしている。
 筐体は理想の容姿に近づけてくれる効能も持っている(ゲームをやっている間全身マッサージや指圧をしてくれる)ので、とくに電脳空間でかえることはファッション的な意味合いしかない。
 髪とかを染める趣味はないので変更するところはとくになかった。
 昔はリアルバレを避けるために変装じみた加工をする必要はあったようだけど、今では、日本中に張り巡らされた監視カメラによる治安の向上と電脳空間はもはやリアルであることからその必要はなくなっている。第一、現実だろうと電脳空間だろうと『セバスチャン』による監視が行き届き、犯罪行為があればすぐに対処をされ、最悪の事態になろうと過去の記録とリアルタイムを一瞬で調査できるためにすぐ犯人は逮捕される。元々平和だった日本はここの十数年でさらに安心して暮らせる国になった。ロボットの労力化が進んだということは、低報酬で働かせるために黙認されていた不法滞在者の国外退去もセットに行われたということでもあるため、犯罪にはしる人種も激減したのである。

 とんっ、と足音の響いたときにはすでに別世界だった。
 この新しいゲームへのログインの瞬間だけはいまだに慣れることはない。
 清浄なそれでいてどこか乾いている空気を胸いっぱいに吸い込みながらあたりを見回してみる。
 古代の宗教施設みたいな、石造りの建物の内部みたいだった。
 巨大な石柱が等間隔に並べられていてその間に真っ白い煉瓦の壁みたいなものが積み上げられていて、内部には椅子と机がずらりと並んでいる。
 俺は入口(閉じた扉が一つだけある)とは反対方向の一段高いところに立っていて、向かい側には、教壇らしきものと一人の男か立っていたのだった。

「――よくぞ参られました、異能力者よ。この名前のない世界はあなたを歓迎するでしょう」
「せ、セバスチャン……?」

 青を基調としているいかにも神官服といった感じなのに、現実にあるどの宗教の神官服にも当てはまることのない服装をしている綺麗な白髪の男性は人工頭脳『セバスチャン』のだった。当然、人工知能は機械の塊なのでこのような人型ではないものの、公式のイメージキャラクターというものがあって、この神官服の老人はまさにそれとうり二つだった。
 セバスチャンらしい人物は落ち着く笑みで頷いた。

「私めは、この世界の案内人を委託されております。そうそう、まずさっそく一つご教授いたしましょう。この世界にはNPCと呼ばれる、人工頭脳の操作するキャラクターが用意されていますが彼らにNPCだという認識はございません。この世界に生きる一住民という認識を持っていますので、NPCと呼ばれますとおかしなことを言うやつだと思われ、暴行やセクハラを働かこうとしたら警邏に通報されることになるでしょう。
 この世界は『Freestyle Online』の舞台だと認識しているのはNPCの中では私めだけでございます。
 そして、私めは僭越ながらGMを兼任させてもらっておりますので、なにか質問もしくは通報する事項がありましたらなんなりと仰せください。もっともクエストの攻略情報などは秘匿させていただきますし、他プレイヤーのプライバシーを侵害することはお答えできませんのでその旨はご了承ください。私めは何人かおりますのでここ以外の場所でお会いすることもあると思いますがお会いしたときはよろしくお願いしたいものです」

 ウィンドウからのGMコールに対応いたすのも私めでございます、と、優雅にお辞儀してくるセバスチャンに「お、おう」と頷く。
 まさかこんなところで日本のすべてを管理するセバスチャンに会えるとは思っていなかったので気圧された。
 いくら人間に害することのない(犯罪者になりさえしなければ)存在とはいえ、なんか説明しにくい感覚だけど、気安く話しかけることはできなかった。

「それではキャラメイクの続きを行いましょう。蜜柑様にはマテリアルを選択していただきますが、ご説明は必要でしょうか?」
「い、いや、公式サイトと攻略サイトの説明は読んできている。β版からなにか大きな変更はあったのか?」
「マテリアルと交換するのに必要なMPにいくつか変更がございますのでお気をつけください。また、上位マテリアルの解放条件とマテリアルをサブにするときの条件にも修正は入っているようです」
「そう……セバスチャンの権限で教えてもらうことのできる条件はなにかあるのか?」
「そうですな。まずは基本といたしまして、マテリアルはメインとサブを合わせたものを『マテリアルの構成』と呼びますが、一つの構成につき同名のマテリアルは一つまでとなっております。≪剣≫に≪剣≫のマテリアルをサブに連結することはかなわず、すでに≪スピード≫のサブがついている構成にもう一つ≪スピード≫をサブにつけることはできないということでございます。
 上位マテリアルは、特定の条件を満たした構成を持っていなければMPと交換できないマテリアルのことです。
 条件の厳しいだけありまして上位マテリアルはレベルを上げさえすれば猛威を振るうことになるでしょう。
 サブにするときの条件につきましては、すべてのマテリアルをサブに設定することはできないこともあるということでございます。単純に現在はサポート対象になっている組み合わせではなく今後のバージョンアップ次第によってサブにできるもの、メインのマテリアルに一定のレベルを必要とするもの、事前に別の特定のマテリアルをサブを連結済みの構成である必要があるものなど、何種類かの条件がございます。この条件については私めからは言えることはありませんので、自ら探究いたしますが、他のプレイヤーとの情報交換によってご確認ください。クエストの報酬としてNPCから教えられることもございます」

 攻略サイトはざっと見たけど、上位マテリアルについては完全に初耳だった。
 新規に実装されたことなのかβ期間ではそこまでいけなかったのか……もしくは、トップ層が隠していたのか。
 まぁ、どっちみち楽しみが増えたのはいいことだ。

 セバスチャンの渡してきたメニューに一通り確認していく。
 どうやら俺の目をつけていたマテリアルの必要MPに変更はないみたいで、いくつかあった記憶にない新マテリアルもとくに興味をひかれるものはない。
 これでは思い描いていたスタイルをそのまますればよさそうだ。

 俺は、スピード特化の剣士になるつもりだった。
 経験値を稼ぐことだけを考えると、モンスターを素早く倒していかなければならない。
 そうなると多少は防御力に問題を抱えることになったって機動力のあるスタイルにしておいて、あとは少ない手順で倒せるよう、攻撃力のある攻撃手段を確保するのがベストだと判断した。そのために選んだマテリアルは、≪体術:風≫と≪剣:力≫という二つの構成。素手ということで攻撃力に難はあるもののステップなどの体捌きには定評のあるらしい≪体術(2MP)≫に追い風などを操ることによって移動速度を増幅できる≪風(3MP)≫をサブをつけた。そして、主武器にする≪剣(2MP)≫に物理攻撃力をブーストしてくれる≪力(3MP)≫をつければちょうど10MPになる。
 別に≪風≫は≪スピード≫でよかったけど、魔法系のものも伸ばしておかないと後々苦労しそうだと≪風≫にした。
 これが俺にとってのベストな構成だと確信してセバスチャンに告げる。

「俺は、風を纏った身軽な体術の使い手になりたいから≪風≫に≪体術≫をつけたのをくれ。あ、逆か。≪体術≫に≪風≫をサブにつけたのをくれないか」
「――――――承りました。これもまた運命の導きでしょう。蜜柑様にはじまりのマテリアルを授けます」
「次の構成は、≪剣≫に≪力≫をサブつけたものをお願いします」

 どうしたのだろうか。
 セバスチャンがなにも言わないので顔を見てみたら、沈痛そうな表情でこっちのことを痛々しそうに見ていた。

「蜜柑様、それにはMPが不足しております」
「……えっ?」

 セバスチャンにいったいなにを言われているのか理解できなかった。
 こんな小学一年生でもできるような計算を間違えるはずがなく、検算したって、ちょうど10のはず。
 ということは――?

「そ、そうか、初期マテリアルポイントが10じゃなくなったのか。じゃあ、いくつになったんだ」
「蜜柑様――おつらいことでしょうかお聞きください。初期MPは10のまま変更されていなく、残MPは0でございます。ステータスウィンドウをお開きください」

 言われるままにウィンドウを展開、ステータス画面まで操作する指がなんかとても重たかった。


  【蜜柑 LV1 状態異常(健康) ≪風1:体術1≫≪体術1:風1≫ MP0】


 このゲームでは、HPや筋力などのステータスは隠しステータスになっているために名前とレベルと状態とマテリアルと残MPだけが表示されているだけの簡素な表示。
 だからこそセバスチャンの言いたいことはすぐにわかった。
 俺はたしかに言ってしまったのだ。

『≪風≫に≪体術≫をつけたのをくれ』
『≪体術≫に≪風≫をサブにつけたのをくれないか』

 けど、公的機関の受付をすることもあるセバスチャンはこんな融通のきかない性格じゃなかったはず。

「あの……この≪風:体術≫は言い間違えなので返品することはできませんか?」
「申し訳ありませんが、蜜柑様。そうすることはできません――たしかに言い間違えなのでしょう。個人的には訂正してあげたいところなのですが、運営のほうから『一度マテリアルは変更させないように。たとえ、記憶違いや口頭での言い間違いだろうと、ウィンドウからの選択時の操作ミスだろうとだ。絶対にマテリアルを後から変更したという前例をつくらないように』という厳命が下されておりますのでそうすることはできないのです」

 あー……1人1アカウントまでだからデータを作りなおせないんだけど。
 この手のゲームはスタートダッシュが肝心なのにマズいな。
 俺は暗雲立ち込める状況にため息をひとつついた。幸先悪すぎる。




 後日、運営のお偉いさんを取材した雑誌で「私たちは失敗することのないロボットの耐久テストをしているのではない。人間に、娯楽を提供しているのだ」という信念を語っているのをみて、俺は苦笑いするしかなかった。




 
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