言の笹舟 web小説レビューサイト

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人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



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ブラックスミスなんぞ中二病じゃなけりゃ名乗らんよ -01-



 くっくっくっ……待ちわびた、待ちわびたぞ、とうとうやってきたこの日のことを! この正門前に設置されているテレポーターに飛び込む瞬間のことを!!

 中学三年のとき進路選択の時間に回ってきた一枚のプリント。
 そいつが俺の運命を改変するキッカケになった。
 普通だったらもうとっくに諦めていなきゃならないような夢を叶えられる「場」を与えてくれるっつう内容が記されていたのだ!

 異世界に進出できるってな!

 今、俺は日本の常識が通じないあちらの世界にいくための講座を終え、ここに立っている。







 ――長かった。

 ――待ち遠しかった。

 遂にこの日を迎えることができたのだ。
 うがぁー、もうこの心臓からドックンドックンと溢れる熱を抑えきれん!
 
「嗚呼! 打ってやるぞ打ってやるぞ、打って打って打ちまくってやっからなぁーーーーー!! 待っていろ、俺の鉄!」

 雄叫びを聞き届けるピカッと晴れている青空はこの俺を祝福しているようで気分がいい。
 で、銀色に輝く魔方陣にいざ踏み込もうと片足を上げようとしたその瞬間。
 がっしりと肩を掴んできた、いかつい腕が。
 毛もじゃすぎていてきしょい腕が。

「なにしやがるっ!
 ――って、おっさんかよ」

 つんのめった体を強引に振り向かせると黒ジャージかつゴリラ顔という非モテ要素満載のおっさんが立っていた。
 実技関係の講師をやっている人で、いつものように左手に竹刀を持っていたりする。
 毛がもっさもさの容姿的にはまったく評価するところのないダメ男ではあるが、こんなのでも、一応は、我が恩師だったりするのだが……
 昨日のうちにお世話になった挨拶は済ませたはずだ。

 いったいなんだというんだ?

 という俺の疑問に答えるようにおっさんは口を開いた。

「待てって、<リノン>。せっかく支給される初期装備と卒業ボーナスを置いていくつもりか?」

「……………………………………おおっ、そんなわけないだろう。フェイントだ!」

「突っ込みどころはたくさんあるんだが……流すぞ。付き合いきれん」

 そういえばそういったアイテムは申請しないと手に入らないことになっていたな。
 説明されたのは講習の初期だからすっかりと忘れていた。

 たしか、運営者側の人間にRPGを初めてやったとき最初の武具の入っている宝箱をスルーしたがため、レベル2になるまで数百回はゲームオーバーしたという、ついでに横にいた弟に笑われ続けたという屈辱的出来事があって、そういった思いを他の人にも味わせたいからこそ講習の最後に自動的に配布するシステムにはしなかったそうな。

 なんというか……この世界の創作者たちがどんなにはっちゃけているのかよくわかる裏事情だよな。
 というか、ヤバかった。いわれがいわれなだけに洒落にならんとこだった。
 んな八つ当たりにまんまとひっかかったら一生笑いものになってたぞ?
 今のところ俺の見事なポーカーフェイスでなかったことにさせたが。
 なかったことにしておくが。

 ん? なんだおっさんその呆れた目は。

 まったく失礼な。
 やたらとフレンドリーに生徒に接しようとするもののガタイの良さとゴリ顔から怖がられ、体育座りになっていたやつが。
 やけ酒をあおっていたのにすぐ酔っ払い、妙なテンションで一部の生徒にトラウマを植え付けた猛者のくせに。
 それを言うなって? だったらさっきのことは広めるなよ。
 あんなうっかりミスはなかったんだ。
 まぁいい、さっさと手続きをしてしまおう。一応講師のお前にもそのくらいの権限はあるよな?
 手元に<ウィンドウ>を表示させて手続きをしていく。

「おっ、これなら問題ないな。
 じゃあ配布する内容を簡単に説明していくぞ」

 おっさんに承認されたことで専用の画面に切り替わった<ウィンドウ>を覗く。

「そういや選択コース受けた分はアイテムが増えるんだよな?」

「まぁな。剣術コースを受講したならそのときに使っていたタイプの剣を一つっていう風にな。
 お前は結局全部とったからそうとうな数になっているんじゃないか?」

 うむ。だからこそ本来は二カ月コースの義務過程を何度も落ち、その間に選択コースを受けまくったのだ。
 さらには受講しているのが武器の扱いの場合、今後ずっと熟練度の上昇値に5パーセントボーナスを貰えることになっているからな。
 四カ月くらいの遅れは頑張ればすぐにとはいわんが取り戻せるし長い目で見ると有利になるだろう。
 赤点を何度もとるたびに笑われていたが賢者はピエロになることをためらわないのだ。

「お前は座学のテストに落ちまくったからな。そうじゃなけりゃあ選択に回せる時間をもっと増やせただろうに」

 ……おっさんめ、自己欺瞞をさらっと暴くんじゃない。

 こちらも開きなおるしかないではないか。

「俺は馬鹿を超えたウルトラ馬鹿――クラスメイト達には略して『うーか』と呼ばれてきた逸材だぞ?
 たった半年の卒業はギネスブック級の快挙なのだ。祝え!」

「あー、はいはい。祝ってやるよ。頑張ったなぁ…………ほんとにまぁほんと」

「すっごい棒読みのあとにおもいっくそ実感込めるのはやめんか?」

「……あっ、こいつは卒業祝いの備品な」

「スルーか!」

 思えばおっさんとは長い付き合いになる。だからこんな気安いやりとりになってしまうのだが。
 期間は半年程度とはいえ、合宿中、講師と生徒は一緒の施設に寝泊まりすることになっているからな。
 その間、授業以外でもいろいろ顔合わせていたからなー。模擬戦とかもやったし。
 しかし最近はどうもほんきで頭の弱い子と思われているっぽい。そんなことないのに。俺はスペシャルな天才なのにな。
 ただ赤点を数十回とってしまっただけで、まったく。
 実技関係は一発合格ばかりという天才なんだからそれ相応の扱いをしてもらいたい。

 だがそういった不満は長続きしなかった。

「喜べ、『銅の延べ棒』と『鉄の延べ棒』を55セットずつだ。
 本来の卒業祝いはもっと記念品じみたもんなんだがお前は四カ月ほど出遅れることになっているからな。まけといたぞ。
 まぁ本校初のオールクリアだからなぁ。このくらいの上乗せの許可は下りたんだ。
 あと俺からの餞別としてレンタル工房の無料チケット五回分をつけといた」

 くっ……嬉しいではないか。

 これならすぐに剣を打てるのではないか?
 鍛冶コースを受講したときにいくつかレシピを貰っていることだし。
 なんて粋なはからいをしてくれるんだ、このおっさんは。
 おっさんの手を握ってぶんぶんと振り回すくらいには嬉しいぞ。男相手だからやらんがな。

「んーあとは、今そっちの<ウィンドウ>へリストを送ったように合宿中に使っていた生活用品と一週間くらい宿に泊まれる金額が振り込まれることになっているからな。確認しとけ」

 このらへんは全員共通だから聞くことはない。
 カリキュラムにちゃんと説明が含まれていたからな。
 まぁ、一応は見ておくが。表示されている<ウィンドウ>をすらっと斜め読みしていく。

「ん? ……練習用に買っておいたインゴットもいいのか?」

 リストの中に、延べ棒一つ分にも満たない量とはいえ数種類の金属が含まれているのに気づいてしまった。
 合宿中に支給されるお小遣いで買ったものは持ちこめないと聞いていたんだが。
 これはいいのか?

「持ちこんだらダメなのは漫画とかの世界観を破壊するもんだ。
 お前がまともに飲み食いせず娯楽にうつつを抜かさず、練習するために買いためてきたもんには当てはまらないさ」

 いいんならいいんだけどな。
 ぶっちゃけ、好物のアメリカンドッグの買い食いを我慢するのはつらかった。
 だが授業中以外に練習するとなると自腹で揃えなきゃならんかったし……高かったが。
 簡単なアクセサリーを作っては溶かしてインゴットに戻してを繰り返し、鍛冶関係のスキルを伸ばしてきたある意味相棒だ。
 序盤のうちはこういった鍛練用のアイテムはありがたい。売ればGになるしな。
 内心めちゃくちゃ喜んでいる俺を不思議そうに眺めていたおっさんに一つ質問された。

「しっかし<鍛冶職人>を目指すとは変わっているやつだな。
 他のやつらは戦士とか魔法使いとか、もっとわすりやすくファンタジーな職業を希望していたしな。
 第一希望にブラックスミスなんぞ選ぶのは少数派だぞ?」

 まぁ、変わっているということは否定できないな。
 合宿開始前にどの基礎コースを選択するのかという説明会のとき、鍛冶コースは不人気だったし。
 中にはネットゲームじゃ鍛冶士やってましたとかいう連中もいたにはいたが。
 試しにやってみたあと次々にやめていったな。
 オンラインゲームの非戦はコミュニケーションがとれなきゃできないが逆にいえばできる人ならやっていける。
 が、ここの鍛冶スキルは板金とか美術とかそっちの技能ないと対応できんからな。
 なかなかいないわけよ。
 適正ある人たちもけっこう戦士とか魔法使いに流れていくし。

 俺か? 俺はな。










 中二病だが。

 ブラックスミス。

 この七文字に魅せられた。




(黒だぞ?)

(陰陽だがなんだがわからんが)

(白黒のうちの一色)

(んで、命に関わる武器の創り手なんだ)

(男は『白衣の天使』になれない)

(だったら)

 なるっきゃないだろ?

 男なら。

 くっそくだらないコスプレなんかじゃなくて。

 ごっこ遊びなんかじゃなくて。

 切り刻めて。

 殺せる。

 真剣を……笑っちまえるほど勝てる一振りをこの世にと、願う。

 俺を銘とする最強を。

 伝説と成り得る逸品を。

 この手で。






「ぼろ儲けできそうだったからなぁ。俺の才能さえあれば。
 戦闘系はどうもレアアイテムを引き当てられるかのリアルラックに左右されそうなイメージがあるだろ?
 けどさ、鍛冶士だったらちゃんと商売やってスキル伸ばしていけば超一流になれるだろ。
 実際どうだがわかんねーがンな感じがしてな」

「ふーん……そういうものか」

 おっさんは納得したようにひとつ頷き、それから苦笑する。

「まぁ、実際のところは俺らはそうなのかどうなのかよくわかってねーんだがな」

「おいおい、無責任すぎるだろ? 先生さんよー」

 突っ込みを入れるがおっさんは打って変わったマジな顔をして。

「俺くらいの年代だと<GATE>には馴染めたって<SAGA>にはいくことすらできねェ。
 正直のところ、お前らに教えてきた内容だって本当に役立っているのかどうなのか不安にデタラメだ。俺程度の権限だと一度出ていったやつらとコンタクトすることすら容易じゃないしな。向こうの情報は伝わってくるけど体感できなきゃわかんねぇことはありすぎる。お前は独自の技法を研究していたようだが……そいつを間違っている、回り道だ、そんなんじゃ向こうにいってから苦労するぞと言ってやれるほどデータと実績は揃っちゃいない。手探りなんだよ。
 だから鍛冶がほんとにいけてる道なのかどうかわからねぇ」

 とぶっちゃけてきた。

「…………なー、それって生徒に言っていいことなのかよ?」

「まぁ、生徒には絶対に言ったらならんことなんだが――お前はもう卒業したしいいよな」

「よくねぇよ、よくねぇ。けどまぁ、教本に書いてあったことがズレまくってるかもしれん覚悟はできたな」

「上等じゃないか」

 おっさん、そんな顔をすんなよ。
 そんな俺に教えられることはもう全部教えたぜみたいな顔は。
 まぁ、実際のところ国益に大きく関わっているこのプロジェクトの中、限られた権限でできる全部を俺たちに仕込んでくれたんだろうが。
 思えば思うほど世話になってきたなぁ。

「そろそろいくぜ」

「いってこい。最初は町周辺とはいえモンスターの出る場所にランダム転移すっからな。
 はじまりの街に死に戻りするなんてことはするなよ」

「それも製作者のこだわりなんだろーな。ま、余裕だって。あんたに死ぬほどシゴかれたんだ」

 脳裏をよぎるのは剣技とかとはいえ自衛隊じみた猛特訓の日々。
 おっさんは授業の間、鬼教官だった。
 いつも竹刀をピシピシ鳴らしていて……

「って、リノン。そういや長話してしまったが俺は他の生徒とも挨拶しときたいんだわ。だからさっさといってきやがれ!」

 そうこんな竹刀の音が耳に焼きついているようでって!
 無造作に振るわれた一撃を気付いたときには片腕でガードしていた俺は、そのまま魔法陣に押しこまれていた。
 足元から光り輝く白いものに視界が包まれていく中。
 最後に映ったのは、大人のくせにくだらないイタズラの成功に喜ぶ中年のおっさんの顔だった。


(ちくしょう、絶対いつかやり返してやる!)


 そんな風に俺は<GATE>から<SAGA>へ、初めての転移をしたのだった。




 
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