言の笹舟 web小説レビューサイト

 ここでは私の趣味嗜好を基準にネット小説をご紹介させてもらってます。
人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



僕はエルフの血を引いている。 「僕と主人の1-1」



 まったく、エルフの末裔なんかに生まれてくると大変だよ。
 森は聖域だのなんだのは感覚的にわかるよ?
 けど、もうちょいうまく他種族と交流しててよ。
 大森林には一歩も入れさせないとか言った挙句に戦争になって、負けて、パルミィ族に種族ごと奴隷にされちゃうなんてさ。
 人数比100対1っていうことをもっと考慮しろよって。
 そんなんだからご子孫様の僕に苦労が回ってくることになるんだ。

「馬っ鹿じゃないの。守の一族とか森にかけちゃうようなノータリンのくせに」







 情けないったらありゃしない先祖に毒を吐きつつ、心の中に〈ウォーター・クリエイト〉の術式を展開させていく。
 地面に置いている三つの甕は別の精霊魔法を受けピッカピカに磨かれているので、準備万端だ。
 一つ一つは僕を呑みこんでもなお余裕のある大きさとはいえ、MPは十分足りている。
 ほぼ毎日やっているんだ、この程度の初級呪文に失敗することはありえない。

 ただ、上を目指そうとするのなら改良の余地は残っている。

 空気中の埃を含まないように、と、飲料には適さない真水にならないように、の二点を守りつつマナを水に変換すればいいというのは素人の浅はかさ。
 なんと僕くらいの熟練者になると軟水と硬水をつくりわけられるのだ!
 ……いや、自分以外にこういうアレンジを研究している人はいないんだけどさ。
 元々<ウォーター・クリエイト>はもっと高難度の精霊魔法を扱うための練習用という位置づけの呪文だし。
 ちょっとくらいの応用は評価の対象になりゃしない。学問的には。

 けど、ぼくの働いている宿屋じゃ評判はけっこういいほうだ。
 この辺に湧いているのは硬水だけど、軟水を用いると煮込み料理とかはぐっと味わいが増すためにこのアレンジを加えたものを提供するようになってから美味しくなったと誉められる。辺境からやってきた人たちは超硬水じゃないと元気が出ないと言うし、お酒の水割りひとつとってもまろやかな甘口を好む人は軟水で、きりりとひきしまった辛口派は硬水とこだわってみたらよく売れるようになったし。
 よく売れるようになったというのは、仕入れたお酒をちょっとお高い値段設定にしたって文句が出なくなったということで。
 冒険者の宿だけあって、収入的には夜は酒場に様変わりする食堂施設は重要拠点。
 其処の売行きをぐーんと引き上げるのだから、単なる水とはいえ買い叩くことなく仕入れてくれるようになった。
 といっても、ものがものだからそんなに稼ぎにはならないんだけどさ。
 大事なのは固定収入だということと、この仕事をしている間、宿屋は僕を手放せなくなったということ。
 ちょっとしたお願い事をするときにこういう手札は重要になってくるんだよ。
 恨まれない程度なら「オハナシしましょ」っていうのは平和的に解決できるからいいよね。










「ウォーター・クリエイト!」

 普段は眠っている【精霊回路】をメンテナンスするように軽く動かしてみて、起動状態に移行させ、一気に精神世界面にある精神エネルギーことマナを物質世界に反影させる。空気中に浮かんでいる水分を掻き集めるなんていうチャチなもんではなく、無を有へと――物理法則ではなく精霊法則に基づく創生技術。

 水よ、あれ──!

 と仰ったわけじゃないけど、甕の中に清水を注ぐ虚空へと繋がる滝は神秘的と言えた。まぁ、視覚的には。虹あるし。
 日常的に、家庭的事柄に行使している技術へ幻想を抱く趣味はない。
 さっさとイメージの中にある風車の回転をくるくると早め、滝の幅を10倍くらいにぶっとくする。
 こうするとMPにロスは出るけど、時間を十数分から一分前後に短縮できる。魔法を使えるとはいえ普通に暮らしている分にはMPを温存しておくメリットはない。だったら他のことに使える時間を捻りだすために無駄遣いするのはアリだった。第一、満杯になるまでただ待っているなんてのはちょっともったいなさ感が強すぎる。
 時は売れるっていうのはチルドレンの共通認識なんだよ。




 世界は物理法則と精霊法則という二種類のルールに編まれている。
 
 僕たちは物理法則を主とする生命体。
 けど、精霊はその名のままに精霊法則を軸に成り立っているし。
 モンスターの中には両方に属しているものも珍しくなんかはない――サラマンダーとか。
 というか、エルフなんかはそっちの範疇に入ってしまう。
 流石に火を吹くようなことはできないけど、純血のエルフは自重のほとんどを消し、軽やかに枝から枝へと跳んでいけるのだ。
 血の薄くなっている僕だって、中堅の冒険者に匹敵する敏捷性を発揮するくらいのことはできる。
 ……スピード特化型には負けちゃうけど。

 <ウォーター・クリエイト>は、空気中に存在している水気に宿っている精霊へMPを与え、美味しい水を作ってもらう初級精霊魔法。
 で、これから行使するのはその一つ上の難度にあたる下級精霊魔法。
 不純物を含まない氷を作成する<アイス・クリエイト>だ。

 三つの甕全てに、というわけではなく飲料水に用いる甕にのみ氷を浮かべる。
 こういうちょっとした一手間を加えることで、冷たく美味しいお水のついてくる食事処としてのお客も獲得できるようになるのだ。

 ただちょいと難しい。
 
 水場というのは他の部屋に比べると涼しい。
 だったらここには冷気という概念に干渉できる精霊が居るということになる。
 けど……捜しづらいのだ。
 エルフ族に伝わるスキル【精霊感知】を用いてもそう簡単ではない。
 精霊を見つけられないっわけじゃなく、見えすぎるのだ。
 今僕のいる裏口付近の水場にいる精霊のみをカウントしたって1000を超えるほど存在していて。
 このうち冷気に対する干渉を得意としている精霊を捜すのは骨が折れる。 
 例えば、一口に大地の精霊とまとめたって、細かく分類すると『凍りついてる石の精霊』『火山から飛びでてきた火成岩の精霊』『荒野の砂の精霊』『沼地の底の精霊』と多種多様。
 人の人格と同様に一つ一つ違っているのが当たり前。
 もちろん、普通に水という要素を含んでいる精霊にお願いすれば氷を作ることはできる。
 氷の精霊と呼べる存在と比べるとMPの消費は増えるけど、誤差の範囲内だ。

 そう言っていられるのは下級精霊魔法だからだ。
 これが、中級精霊魔法とかなら結果に三倍~五倍といった差がつくことになる。
 下級だからと怠けていると中級のときに要領が掴めなく効率が悪くなり、最悪発動させられなくなる。
 日頃から目的に合った精霊を選びとる。
 この積み重ねこそ精霊使いとしての技量を伸ばすのだ。

 とくに戦闘中など、ゆっくりと適正のある精霊を捜している余裕なんかはまったくない。
 こういった基礎鍛練を積み、勘を磨いておかないとろくな攻撃魔法を出すことなく死ぬことが予想できてしまう。
 精神集中に気合いが入るってもんだった。




 ――そう。
 テノに冒険者になることを約束することになった日の翌日。
 僕ことルーゼ・ターニカルはごく普通にいつもの勤め先≪犀の目≫にて、ほぼ習慣になっている水汲みをしているのだった。
 やらなきゃならんことは多すぎて、採掘者としての登録とかあんまやばくないパトロン探しとかあるけど……
 ほらまぁ社会人として、こっちの都合なのにいきなり辞めさせてくださいとは言えんでしょ。
 常識的に考えてくださいよ?
 次の日からダンジョン探索なんてできるわきゃない。
 準備も重ねに重ねとかないとなー。死ぬし。










 ちょうど「昔は過冷却水やっていたんだよ……」と言っているっぽい精霊がいたので、MPを渡して、お願いする。
 すると<アイス・クリエイト>は無事成功。
 甕に大人の頭部くらいはある氷が見事にぷかぷか浮かぶことになった。
 そのくらいになるととっくに水は一杯になっているので、木製の蓋を閉めていく。

 精霊魔法には方法に3パターンくらいあって、今使ったのは祈願式と呼ばれている方法だったりする。
 これは精霊という職人さんにMP(お金)を渡しておき、依頼内容(術式)を伝えれば、仕事をしてもらえるというもの。
 この方法は、MPさえ尽きなければ<ウォーター・クリエイト>をしつつ<アイス・クリエイト>と並行進行できるのが便利だ。

 他には、祈願式に比べるとマイナーになるものがあるけど……今はどうでもいっか。




 朝一番の仕事を終わらせたので、今日のスケジュールを立てていくことにする。
 まだ、宿の主人ことガトさんに採取者に冒険者になることは告げていない。
 雇用主の彼にちゃんと話しておかないとならないだろう。
 採取者となると現在のペースでは働きにくることはできない……けど、完全に辞めるには惜しい職場なのだ。
 ここは、この腐れた街には似つかわしくないほど条件が優遇されている。
 それに引き継ぎ関係の話し合いをしなければならないし。
 だったら昼の混雑が終わったくらいに時間をとってもらおうか。

 と考え込んでいると。

「――ルーゼ兄ちゃん!」

 甘く、幼い、したったらずの可愛らしい声に呼ばれた。
 振りむくと戸口をちょうど開けきったところの茶髪の幼女――カルカナが居た。

 見た目を評価しようにも、幼くて、美人になるのか不細工になるのか判断のつかない。
 けどちゃんと身だしなみを揃えていて、髪にはくしを通していて、服には汚れどころかしわもない。
 取り立てていいところは上げられないけど、悪く思われるところもないのがカルカナである。

 とっとと近寄ってくる姿が愛らしい。

「ルーゼ兄ちゃんを呼んできてって言われたよ! ガトおじさんに」

 聞いているとほんわかしてくるような声。
 媚びるでなく、純粋に保護欲をかきたてさせる一連の動作はカルカナの武器と言える。
 本人にはまったく自覚はなさそうだけど本能的にはわかっているだろう。
 だからこそ彼女は無条件に愛される。
 そういう"いきもの"。

「ありがとう。いつ、どこでって言っていたかな?」

「ガトおじさんの部屋にお昼になるまでだって。ダメならいいとき教えて。わたし、ちゃんと伝えるから」

「ううん、だったら大丈夫だよ」

 僕の顔を見上げている彼女についつい頭を撫でてしまう。
 くすぐったいよーともだえる様子に微笑みながらなんだろうと考える。
 いちいち呼び出されるなんてことはそうあることではなかった。
 カルカナを連絡役に使ったことからしてなにか叱られるというわけではなさそうだし。

 冒険者用にストックしている薬草の古くなったものを煮詰めた美容液を使っているために、すっと指を流れていく髪の感触を楽しむ。
 そんなことをしながら予想しようにもちょっと思いつかなかった。
 まあ、本人に聞きにいこうと腕の動きを止める。
 やめちゃうのいう視線は心苦しかったが、彼女は彼女でこんなところにいつまでたってもいられるというわけではないのだ。
 だってカルカナはれっきとした僕の同僚――『犀の目』の従業員なのだから。

 ここ『犀の目』では多くのチルドレンたちが働いている。
 普通は仕事にありつけないカルカナのような幼女たちもけっこう多い。
 そういうお店なのだ。




 
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