言の笹舟 web小説レビューサイト

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僕はエルフの血を引いている。 「僕とテノの1-3」



 空になった食器を水に漬けこんだところでテノは口火を切った。 

「私たちエルフの立場は悪い」

「うん、両親共にハーフエルフの僕は生まれながらに三等市民。
 ハイエルフのテノは一等市民の資格を持つけど、ほんのわずかにも弱みを見せたら奴隷にしようと狙われることになる」

 肌の黒くないエルフは生まれつき三等市民に位置づけられる。
 この位は乞食とかと同レベル――『見かけたら殺すなり飼うなりしていいよ』と認知されているほどに低い。
 基本的に希少性と価値の高いエルフは滅多に殺されることはないとはいえ、性奴隷に貶めようとしてくる連中には反吐が出る。
 美形を約束されている種族というのは最終的には弱みになってしまうのか。
 この血統にはいろいろと苦労させられる。

 エルフの扱いの悪さは全国どこにいっても似たようなもの。







 差別的扱いの原因になったのは五百年前にあったという『大戦』にあるという。

 エルフたちは大森林に暮らしていた。
 現在、世界最大派閥になっているパルミィ族は当時もっと生活の場を広げたかった。
 パルミィ族は大森林に取り囲まれるようにある平地の種族だったため、さらなる繁栄は木を切りださなければありえなかった。

 そして……起こったのは木々を神聖視するエルフ族との戦争だった。

 最初は天災クラスの精霊魔法を操るエルフ族が圧倒的に有利に戦況を進めていたという。
 ただ、ひっくり返された。

 敗因は、エルフは侵略してくる軍隊を追い返して、見せしめのように街一つを壊滅させるだけで済ませていたということ。
 五百年前の戦力比なら徹底的にパルミィ族を根絶やしにできたと歴史書にはあるのに。
 虐殺は嫌だとか弱い者いじめはうんぬんかんぬんの道徳心こそ、彼らの首を絞めることになった。

 パルミィ族に力を蓄える時間を百年単位で与えてしまったのだ。
 いくつかの要素が、月日と共に戦力比を逆転させていった。

 一つは、<ダンジョン>出身のパルミィ族がエルフと渡り合えるほどの戦闘能力を手に入れたこと。
 昔のエルフは『大森林』から出ることはなく<ダンジョン>に入らなかった。

 一つは、パルミィ族は大戦を終わらせるまでの二百年の間に技術を高め続けたこと。
 エルフ族は精霊魔法を扱うだけで、手製の槍と弓による原始的生活を頑なに変えようとはしなかった。

 一つは、肌の黒いエルフを『ダークエルフ』と差別し、大森林の中でも生活環境の悪い日差しの悪いところに隔離していたこと。
 パルミィ族の使者は交渉を行い、『ハイエルフ』として扱うことを条件に彼らをパルミィ族側にしてみせた。

 遂には三百年前、エルフ族はパルミィ族に惨敗――以後は一族ごと奴隷扱いされることになった。



 
 ただ、ガンデラフェニクスはおいてのみエルフは一等市民に扱われる。
 冒険者として、生産者として、エルフの能力は価値があると認められているからだ。
 とはいえ、認められるのはそういった職についているエルフの場合のみ。

 危険度の高い冒険者という職業を避けていて。
 両親の親友だったというテノの父親と交渉することで、形式上は緑鱗亭の奴隷ということになっている僕には当てはまらない。
 しかし生産者に属すると認められるには営業資格がなければならない。

 そして、一等市民の権利を得ているテノはそういった不条理こそないが……
 借金を背負うことになれば、奴隷に落ちることは普通のパルミィ族と同様に決まっている。
 問題なのは借金漬けにしようと『うまい話』を持ってくる馬鹿どもがいること。
 取引先の商店に圧力をかけて急な取引停止にして赤字にさせようという貴族連中がいるということだ。
 一等市民というのは所詮は平民の範疇に過ぎないのだ。
 借金をせずとも、営業資格を失えばテノは家族のいない成人前の娘ということになる。
 権力者たちに『保護』という名目によってどうにでもできる存在になってしまえばどうなるかなんてのは考えたくもない。
 このあたりでは実子と交わることすら違法じゃないのだから。










「私たち<チルドレン>の立場は保障されていない」

「そう、僕たちのような孤児を助けてくれる制度も人もない。
 どんなにか弱くとも自分の力によって生き延びるしか道はなくスベはありゃしない」

 ガンデラフェニクスに流れ込んでくる冒険者死亡の大半は一人身とはいえ、家族連れはいないわけではない。
 そして、女性の冒険者の妊娠も幸せか不幸せかはさておけば珍しいものとはいえない。
 故に迷宮都市には子供たちも住んでいることになるのだが……
 冒険者の死亡率を考えると当り前なことに孤児は続出しているというのが見たくはない現状だった。

 そういった孤児≪チルドレン≫たちの生活環境は非常に悪い。

 外から食いつめてやってくる山賊もどきとは違い、迷宮育ちの子供たちは<ダンジョン>の危険性を知っているために冒険者になりにくい。
 ということはパンドラ様の益になっていないということで。
 その分、社会保障は低く見積もられてしまっている。

 さらには労働先の少なさという問題がある。

 他の都市ならばある仕事が、迷宮都市の歪さゆえに存在していないのだ。
 ガンデラフェニクスの市場のほとんどは冒険者向けのものになっているのだが、大半は職人技になっている。

 例えば、服飾関係の仕事に就こうにも求められるのは剣を通さない生地を縫うこととボタンにマナを込めつつ魔方陣を刻むこと。
 そんなのは十年単位の修行をしないと無理なのだ。
 だけどごく普通の服で満足する客層はかなり狭いのが現状である。

 単純な労働はあるにはあるけど、そういうのは冒険者からのドロップアウト組に持っていかれる。
 彼らは心を折られたダメダメなやつとはいえ、一般人を遥かに上回る能力を持っている存在なのだから。
 非力なチルドレンの出番などほとんどなくあるものはたいてい賃金が安い。
 それでも希望者は多いためにさらに一人一人の賃金は低くなることに繋がってしまう。

 チルドレンたちの生活は難民と大差ないほどに酷い。
 なので、パンドラ様は家もなく食うものもないチルドレンを授業料と生活費を貸してくれる冒険者学校に誘いこむのだ。
 借金を返済するまでは定期的に<ダンジョン>に潜らないと爆発する首輪をつけることを条件に。
 脳に栄養の回っていない子供たちは返済しきれるのが一割以下たど知っていながらふらふらと門を潜っていく。
 巧妙とはいえない、だが避けられようのない罠と言える。

 そのくらいには悪辣なのだ。
 緑鱗亭を失っても心優しい支援者が出てくるなんて夢は見ることはできない。










「私たちのお店の経営状況は最低」

「専属の冒険者はいなく、このままじゃ営業資格を取り上げられる。
 しばらくは売上のほうで誤魔化すのにセールをするとはいえ、そんなのは一ヵ月も持ちはしない」

 テノの父親がなくなったのは一年前のこと。

 薬師なのに奇病にかかったのだ。
 それも初期症状が出たときにはもうどうしようもなくなっている死の病。

 僕にとっては精霊魔法や多くのことを教えてくれる優しい人だった。
 父親だと思っていたと言ってもいい。
 けど、彼の死を悲しんでいられる時間はなかった。

 厄介だったのは、彼の病の初期症状は指先に麻痺が出るというものだったこと。
 その麻痺が腕を伝うように広がっていき、二週間後には心臓を止めるというだったのだ。

 薬の中には、爪の先ほど多めに薬品を混ぜてしまうだけで猛毒になるものは珍しくはない。
 いったいどこの誰が、体を自由に動かせない薬師の在庫を買い取ってくれるというのか。

 症状の出ていない頃につくりためといたものと説明したって、買いたがる人はいるはずがない。
 僕らにできたことは、新顔の行商人をだまくらかして相場の半額に設定した在庫を当座の生活費に換えるくらいしかなかった。

 そのあと、テノの父が作ったものではなくテノ作ということでプロは作らないような簡単なものだけを店におき細々とやってきたのだが。
 蓄えなんてできるはずはなく。
 吹けば吹っ飛ぶような貯蓄しかない。 










 笑ってしまえるほどに絶望は徒党を組んで迫ってきている。
 逃げ道を入念に潰してくるような進軍だ。

 けど、彼女の瞳は暗褐色に輝いている。
 明日を見つめる光を放っている。

「だからなんだっていうの?」

 現実を見据え、それでもなお僕の大好きな彼女は毅然と無表情に言ってのける。
 
「ああ、そんなことはどうにでもなるんだ」

 だったらその言葉を真実にしてみせるのが僕と僕らとテノなのだから。

 舐めるなと。
 侮るなと。
 けど、同情はありだと。
 貰えるものは受けとってやると。

 僕たちの築き上げてきたものはこのくらいのピンチじゃ揺るがない。

 渦巻く。
 轟く。
 煮えたぎる。

 心のどこからわきおこってくるのがわからないエネルギーを全部思考に注ぎ込む。
 それはテノもだったのだろう。
 熱にうなされるような赤みを帯びた頬にぞっとするほどの色気が帯びている。

「ルーゼに冒険者になってもらうのは今じゃない。
 エルフという有望株に対する貸しということでいくつか借りられるものがあるの」

「わかった。
 それだったら同意のサインじゃなく直接相手に遭いにいったほうがいいね。高値をつけさせる」

 僕の未来というを質に入れるって言葉。
 を迷うことなく受け入れさらに修正を入れていく。

「じゃあ、三年後には冒険者になるってことで。
 スポンサーが離れないようにそれまでは採取者をやって、実績を重ねるよ。
 有能と認められたらもっと引き出せるようになる」

「助かるわ。
 私は組合に所属しているエルフのお婆さんを雇って、
 仕事をこなしてもらいつつ秘伝の技術を教えてもらえることになっているの。
 腕のいい人だから安くはないけど、私たちの将来を考えるなら絶対必要な投資になるわ」

「カノンさんにはほとんど教えてもらえてなかったからね。
 職人の下働きだって、最初はタダ働きどうぜんなのにそうやって腕を磨いていくんだ。頑張ってきて、テノ」

 組合とはエルフ同士の相互扶助組織のこと。
 ガンデラフェニクスに住んでいるエルフの八割はここに所属している。僕もだ。
 ここの組合員たちがお店にミルク用のブレンド薬草を買いにきてくれなかったらもっと状況は厳しかっただろう。
 そういうように買い物するときは互いの店にするなどして助け合っているのだ。
 僕もテノの誕生日などは、組合の知り合いが経営しているレストランに行ったりするし。

「じゃあ、三年間の繋ぎの冒険者は必要になるけど」

「ルーゼの職場の人には頼めない?」

「使いたくはないな。
 一人切り捨てるとこれまでに築いてきた人脈の大半を失うことになっちゃうよ」

 関わらないようになるのか、憐れまれることになるのか。
 距離を置かれることは間違いない。
 乞食は乞食以外の友達を持つことはできないというのは真理だ。

 金銭関係は友情にヒビを入れるようにお願いちゃんは縁を断たれることになる。こんな街ではとくに。

「でも、繋ぎの冒険者は僕のほうで用意しておくよ」

 アルゼーオのときのことを思い出したのかわずかにテノが顔をしかめる。

「気をつけて。噂立ったら終わるの」

「冒険者なんていうのはジンクスとか縁起とか拘るからねー。すぐ死ぬくせに。
 まぁそうじゃなくたって、相場以下のところに雇われたがる人はいないか……まぁどうにかするよ」

 普段は酒場でのんだくれている連中だ。
 暇人すぎて、悪い噂はあっというまに広がってしまう。

 アルゼーオみたいに装備を整えられないからどんどん死んでいくなんてことを重ねていたら、とんでもないことになる。
 そうなったら相場の倍出そうと雇われたがる人はいなくなる。
 誰だって死にたくはないのだ。

「ここはきつくても相場通りのお金を払ったほうが得だと思うの」

 テノの危惧はもっともだと思うけど……

「ううん、ラピュタ教の信者を使う。彼らと交渉するにはうってつけの神遺物を持っているから。
 交換条件に出せば、数年間、条件の悪い契約内容に拘束されることくらいは修行で片付けてもらえるよ」

 僕にとってはたんなる記念品にすぎなくても、信者にはお宝になるもの。
 そういったものを運よく持っている。
 数はあるから、数カ月ごとに一つといったようにすればちゃんと働いてくれることだろう。
 それはもう未通女に釣られるユニコーンのごとく。
 けど、これは比較的真っ当な取引だろう。相手だってその条件に納得するんだし。

 なのに――

「ルーゼの交渉は天罰を落とされないか、私心配なの」

 ――まったく手厳しいよ、テノ。










 これで一通りの懸案事項は片付いたかな?

 僕のスポンサーになってくれる相手の絞り込みとかはあるけど、これは二人で話して決まることではない。
 ツテを頼って、情報を集めるところから始めないと。
 テノにはどうやら候補があるらしいけど……
 あれ、なんか悪寒が。風邪かな? ちゃんと予防の薬を飲んでおかないと。

 けどまぁどんなに厳しい状況だろうとどうにかなる。ならせる。

 一息ついているとコトンという音。
 テーブルには、滅多に使うことのないガラスのコップが二つ置かれていた。
 そこには半分ほど注がれている魅惑の紫色。
 この安物にはない上品な香りは、おそらくは組合員が家でできたと送ってきたちょっと上等のワインだ。

「飲みましょう」 

 子供たちでも果実酒を呑むことは珍しくないとはいえ、朝からこんないいものを呑むなんてことは今までになかったこと。
 だからこそテノの意図を理解できる。
 視線を合わせ、お互いを見つめあう――永久のパートナーを。

「じゃあ、僕たちの未来に」

「私たちの未来に」

 そして、僕たちは同時に杯を傾ける。
 食前酒がかっと喉を伝っていくが一気に飲み干してしまい。






 ルーゼ・ターニカルは誓う。
 テノ・ラクフェスとここに誓う。




 世界よ、僕たちに牙をむくというのなら――

「いただくぞ」

「いただくぞ」

 ――食いちぎってやる。




 
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