言の笹舟 web小説レビューサイト

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僕はエルフの血を引いている。 「僕とテノの1-2」



 迷宮都市ガンデラフェニクス。
 世界的に珍しい<ダンジョン>のある都市国家。
 いや、こういう説明は間違っているだろう。
 順番的に正しくない。ここは千年前に<ダンジョン>ことパンドラ様という異例の王様によって建国されたのだから。

 パンドラ様に挑み、パンドラ様に褒美をもらい、パンドラ様に食べられる。

 ミミックというお宝を餌に獲物を引き寄せる習性を持ったモンスターの進化の果て。
 天すら届かぬ、どんなに目をこらそうと頂点を見ることのかなわない塔に至ったパンドラ様。
 実物さえなければ、世界各国の王城を敷きつめてもなお余る総面積を誇る建築物自体がパンドラ様の体だと誰も信じてないだろう。

 冒険者たちは各フロアに配置されているモンスターと戦い。
 設置されている宝箱を開け。
 仕掛けられているトラップを潜り抜け。

 そのうち死んで、パンドラ様にぺろっと食べられちゃっていく。

 冒険者向けの宿屋で働いている僕はその死亡率の高さを十二分に知っている。
 ダンジョンに救いはない。
 安全圏はない。
 千年の歴史は伊達ではないのだ。冒険者を適度に育て適度に屠るシステムは完成を迎えていると断言できた。
 口の悪い者たちは『人間牧場』と呼ぶが、僕は捻りこそないものの端的に言い表している言葉だと思っているくらいだ。

 故に冒険者なんかにはならないと誓って――











 ――いたっていうのに。

 なんでうなづいちゃったのかな?
 いや、テノのとても綺麗な微笑みにぼーとなっちゃってたから気付いたときにはってことなんだけど。
 男は女で人生を棒に振るってホントだね。

 つーか、無表情っ娘のテノがいつになく上機嫌だったのはこの返事を引き出すため?
 で、まんまと引っ掛かったということになるのかな。
 情けないや情けないや。

 男と女、ときには乗ることも乗らせることも大事とはいえ、そのことに気付かないっていうのは失態に他ならない。

 けど……こう思ってしまうのだ。

「テノ。君をそんな風に育てた覚えはないよ?」

 一歳年下のテノの教育には気を遣ってきたというのにどこでこんな手法を覚えてきたのか。
 そう悲しげな目で見つめるものの。
 テノはしれっと、

「私をこんなにしたのはあなたじゃない、ルーゼ」

「ええっ?」

 とんでもないことを言ってくる。
 そんな心当たりはないよ?
 戸惑っている僕にテノはヒントをささやいた。

「アルゼーオの勧誘のとき」

 ああ、とようやく言われていることを理解できた。
 今は亡きアルゼーオと交渉するとき、涙目エルフっ娘ユニゾンアタックをしたのだった。
 そういう演技というか誘惑? とは無縁の性格だったテノにその手のテクニックを教え込んだのは間違いなく僕。
 女装にも見えないこともない服装までしてノリノリだったのは僕だ。
 エルフ耳という共通点と白い肌と黒い肌のギャップ、子供二人のシンクロした揺さぶり。
 それらを駆使して、相場の半分以下の報酬によってアルゼーオを雇ったのだった。
 そのときにこういう絡め手の有効性を学習したというのか。
 やっぱ彼女はいつもすばら……

 って、ということは自業自得ということっぽい?

 アルゼーオの怨念とかそういうのでも可。
 貧乏がたたって、満足に装備を揃えられなかったというのも早死にの一因になったことは確実なのだから。
 まぁどうなったってもいい命という認識だったからその辺の配慮はしていなかったし。






 はぁとひとつため息をつき、コップのミルクに口をつけて喉を潤わせる。
 市販の牛乳に薬草の粉を混ぜ込んであって、普通の人には苦いらしいけどエルフは本能的に好む味らしい。
 故にエルフの血を引いている僕には甘みが増しているような気さえして毎朝のように飲んでいる。
 テノにとっても大好物らしくちょっとずつ比率をかえては最高のブレンドを追及しているとか。
 そのブレンド済みのものはお店のほうに並べているらしく、一部には好評なんだとか。

 舌をリセットできたところで、熱々の湯気を立てているシチューのお皿に視線を落とす。
 この激辛料理をどう処理すればいいのだろうか?
 残すことなく完食するには一気にかきこむしかないのだろうか。
 どうにか辛さを和らげる手段はないものか。

 そんな風に悩んでいることを察知したのかテノはすっと席を立つと陶器の容器を持ってきてくれた。
 テーブルに置かれたそれを見ると紫の混じった白っぽくとろっとしたものが入っている。
 紫は、おそらくレーズンなどのぶどう系。

「ヨーグルトのソース。パンに塗る。酸味は辛さを和らげる」
 
「へぇ。……うん、美味しい。このソースと一緒なら辛さもちょうどよく感じられるよ」

「自信作」

 ということはヨーグルトは市販のものじゃないのか。
 最近は素材を発酵させないと作れない薬にも手を出しているからその技術の派生なのかな?
 いや、せっかく買った関連器具がもったいないから料理にも使ったのか。

 というか自慢げに無表情る彼女は可愛いな。どうだって感じなのが。

 とにかく辛い料理に合わせることを考えてくれるとは……
 このシチューとじゃなくても、味気のないパンがこのソースを塗ると別物に感じられる。
 料理できて、気のきいている彼女は最高だなぁ。










 今は亡きアルゼーオ・ランピィータはテノのお店の従業員だった。
 薬の調合と販売している『緑鱗亭』のために<ダンジョン>から材料を採ってくるという仕事に就いていた。
 そういうのを専業にしている採取者としてではなく冒険者としての兼業だったが。
 頑張ってくれていた彼の働きに僕たちは報えてきたかというとそうではない。


 テノは才能あるとはいえ子供。
 薬剤師の資格は持っているものの経験は同業者と比べると高くはない。
 複雑な調合をすることはできなく、作るのはある程度簡単なレシピのものに限られるために他店に勝るところが限られてくる。

 それに薬というのは信頼こそすべて。子供ということはそれだけで安く買い叩かれることになる。
 ブランド力とかあるなら値段を上乗せられるけどそんなものはないし。

 そういった事情によって、利益率は高くなく、故に持ち込まれてきた素材を適切な金額では買い取れなくなる。
 まっとうな冒険者は雇われたがらないのは仕方ない。

 ゆえに気の優しそうな青年を『勧誘』させてもらったわけだが。
 子供を保護の対象と思っているような人は視線を見ていたらわかるから余裕だった。

「けど、こんなにあっさりと死ぬとはなー。
 せっかく猫を山ほど飼っておいたのに無駄になったか」

「彼は労働の先にあるマネーという力をあんな手で奪われる愚者。
 そのうち【ランクアップ】に耐えられなくなってくることはわかっていたこと。
 ……一回目というのは流石に早いと思うけど」

 テノの言っていることはもっともだ。
 アルゼーオは単純に生き延びることを考えるのなら、あんなボランティアに注いでいる時間を鍛練に用いれば良かったのだ。
 そうされるとこっちは困るのだけど――根本的に彼はこの街に適していなかった。
 もうちょっと要領よく生きれていたのなら、僕たちの仕事を手伝いながらも冒険者として暮らしていけただろう。
 大成する見込みがあるのなら僕たちだってちゃんと支援をしていたんだし。

 彼に対する投資はドブに捨てるようなもの。

 そう思われてしまったのが、アルゼーオの間接的な死因と言える。






 パンドラ様による、冒険者を効率的に殺していくためのシステムの一つに【ランク】という概念がある。
 ランクは冒険者の力量を総合的に判断され、つけられる。
 このランクを基準にどのあたりの階層を探索するべきなのかを決められるのだ。
 ……決めるのではなくに。

 適正ランク以下のフロアを探索していると強敵をけしかけられる。
 だって、出没するモンスターを雑魚と思うような強者が延々とその階を探索することが許されるならパンドラ様には損にしかならないからだ。
 
 迷宮の中にはマジックアイテムなど収められている宝箱が設置されてあるのだが。
 適正階層以上のフロアにある宝箱じゃないと開ける資格は与えられない。
 リスクにハイリターンを抱き合わせることで、パンドラ様の食事の機会を増やすようになっているのだ。

 まぁアルゼーオは適正階層のちょい下のフロアのみを探索していたので、宝箱を開けたことはなかったらしいけど。

 そういえば先週、この適正ランクを引き上げられる【ランクアップ】をしたとアルゼーオは喜んでいたな。
 危険は増えるとはいえ、実力を認められたということだから自信のなさげだった彼には嬉しい事柄だったのだろう。
 従業員サービスの一環として祝ってあげたっけ。

 で、アルゼーオはいくつかフロアを上げなければならないと言っていたため、採取してくるものを指定したばっかだった。
 どうやら慣れる前に殺されたようだが。
 基本的に二番目に死亡し易い時期だからしかたないのかな。

「けど、もうちょっと頑張ってもらいたかったなぁ」

「私の予測とは数カ月程度の誤差なの」

「才気のかけらもありゃしない人だったけど……せめて死ぬ気でやってもらいたかったな」

 しょせんは食いつめの農民の三男坊。
 大きくなったら家を追い出されることを知っていたのに何の対策をとることもなく成人して、ガンデラフェニクスに流れ着いた人。
 努力っていう言葉を知らなかったのかな。

 ――僕たちはあがくことのない人間を仲間とは認めないよ。










 ここガンデラフェクスは冒険者の街。
 その為に、この街に店を構えている場合は冒険者に貢献する経営内容になっていなければならない。
 じゃないと営業資格を剥奪されることになるのだ。

 そして、子供による程度の売り上げでは貢献とみなされはしない。
 だからこそ常に冒険者を雇い、生活を支援しているというようにアピールする必要がある。
 実質は彼らの稼ぎの一部を吸い取って、足を引っ張っているようなもんだったけど形式が大事なのだ。

 その形式さえろくに取り繕っていられなくなっているのは正直マズいと思うけど。

 たぶん普通の商店だったらとっとと店を閉めているほどに状況は悪い。

 十二歳の店主、テノ。
 十三歳の幼馴染み、僕ことルーゼ。
 
 子供二人でどうにかなるほどに世の中は甘くない。
 だからといって諦めてやるような道理はないんだから。


 さぁ、起死回生の一手を打とうか。テノ。




 
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