言の笹舟 web小説レビューサイト

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僕はエルフの血を引いている。 「僕とテノの1-1」



「アルゼーオ、いなくなった」

 自分の胴体ほどもある籠の半分を埋めるほどの薬草の数々といくつかの小袋に仕分けられている木の実。
 ようやく日の昇ってくる時間帯だというのに、これほどの森の恵みを集めてきた僕に待っていたのはテノの淡々としている言葉だった。
 気持ちのいい労働に浮かんでいた汗が一瞬のうちに引いていく。
 最悪の一歩手前の報告である。

「逃亡?」

「逝ったの」

「逝ったんだ」

 労働のつらさに逃げていったというのなら捕獲後に説得できる。
 時間と薬物がもったいないとはいえ、洗脳という手間のかかる手段を選択することだってできた。
 けど、死んでしまっては――







「彼くらいのランクなら蘇生費用はたいしたことないでしょ?」

「脳漿をぶちまけていたらしいの。うちにお人形を買っておく余裕はないわ」

「……そうだね」

 迷宮の中もしくは近辺での死者の魂は買い戻せる。
 さらには器たる肉体の損傷はけっこう酷かろうと再生処理を施してもらえる。高いが。
 再生処理さえうまくいったのならば、予約待ちのあとに『生き返らせる奇跡』を執り行ってもらえるのだ。
 ただ、脳ミソというのは唯一再生処理が届くことのない神の領域。
 頭部を破損したのに復活させられるという話は、泣きくれる遺族の周囲にタケノコのごとく生えてくる詐欺集団以外から聞くことはない。
 とはいえ死を受け入れられない人というものはいるもの。
 金を積んで、最高の再生処理を施して、見ためだけは生前の姿に戻させるらしい。
 むろん蘇生の儀式をしたってすぐにまた魂は抜けていくのだが……息をしているだけの状態のまま何年も病院に預けるとか。
 なので『お人形』とか『生ける死者』というのはそういった状態になった者の蔑称だった。
 さくっと殺しちゃえばいいのに。

 ――で。
 要するにアルゼーオ・ランピィータはいなくなったということ。
 流石はテノ。ちゃんと伝えるべきことを一言にまとめてくれていたらしい。
 やっぱ彼女はいつも素晴らしい。

 と、常識を再確認しているとテノは優しいことに籠を持ってくれた。
 軽いとはいえこういった親切は身に染みる。
 うん、やっぱ彼女は……

 そう現実逃避をしている僕をたしなめるように彼女はおごそかな口調で宣言する。

「家族会議を始めるの」

 僕はやれやれと肩をすくめるとドアを閉めるのだった。










 ことことと煮込まれているシチューはちょっと前に放り込まれた香草とイイ感じに混ざり合っていて、美味しそうに見える。
 ゆっくりと鍋を掻き混ぜるテノの後ろ姿に癒されながら、僕は今日の収穫を棚に納めていく。
 エプロンって……いいよ。
 テノの魅力を存分に引き出している。
 落ち着いているブルーの生地から飛び出している真っ黒い肌はなんともいえない。
 というか料理のできる女の子ってそれだけでいいよね。

「ルーゼ、お皿」

「はいさ」

 片付けは終わって、テノの背中をぼんやりと眺めていたところなのですぐに棚から食器を出していく。
 どうやらメニューはシチューと昨日作っておいたパンとリクルンという果実らしく、ヨダレがこぼれそうなほど期待できる。
 テノは薬剤師見習いという職業と関係あるのか、料理の腕前はピカ一だ。
 僕の仕事先になっている宿屋は有名なシェフを雇っているけど、五分に渡り合えるほどの技量を持つ。
 昼と夜は賄いを食べている僕にとって、急ぐことなく食べられる彼女との朝食は一番美味しく味わえる食事と言える。
 まぁ、今日は家族会議しながらということでゆっくりはできなさそうだけど。

 食卓に盛り付けたテノの手料理が並び終えたので、席につく。
 ある程度使った調理器具を片付けていたテノも向かい側に座った。

 で、両手をグーにして合わせて、二人、息を揃えて。

「いただくぞ」

「いただくぞ」

 ――食事の前の挨拶の文句を唱える。

 この世界に存在するありとあらゆる生命体には魂≪スピリッツ≫が宿っている。
 食べるということは、さらには生きていくということは他者のスピリッツを奪っていくということになる。
 奪ったスピリッツは己のスピリッツの糧となる。
 そして、一部はそのまま加わってしまう。
 だから動物の肉ばっかり食べていると本能でしか行動できなくなるようになるし、植物だとじっと動かなくなってしまう。
 そういう悪影響を避けるために「てめぇの魂はもう俺のもんなんだぞ」という意味を込め、この文句を唱えるわけだ。
 この街ではほとんどの者に染みついている習慣である。

 えっ……辛いの?

 シチューを一口含んだときの驚きは刺激的だった。
 スプーンの中に転がっていたいくつもの小さい粒々はゼリンの実かと思っていたらそうじゃないらしい。
 つぷつぷしていて、わずかな甘みのあるゼリンではありえない。
 噛んだ瞬間に弾ける激辛に動きが止まる。
 一口目でこれなら一皿ならどのくらい舌を痺れさせることになるというのか。
 ただ、テノの手料理を残すという選択肢はない。
 男の子なんだから。

「そういえば異国の薬剤を手に入れるついでに調味料も仕入れたって言っていたよね」

「正確には、調味料にもなる薬剤なの。
 調合の感覚を掴むために試したものを使ってみたのだけど、健康にいいわよ」

 テノはにこにこと微笑みながらパンにつけて食べていっている。
 普段から多くの薬を自分で試している彼女なら味覚の許容範囲は広いだろう。
 しかし基本的に無表情な彼女がこんなに笑顔になるということは――

「もしかしてテノってこういうの大好き?」

 なのかな、と思ったのだけど。

「いいえ、違うわよ。
 微妙に顔を歪めているルーゼのことが大好きなだけよ」

「…………そう。僕もお茶目なテノは大好きだよ」

「嬉しい」

 もう満面の笑みっていう風になった彼女はとってもレアで。
 貴重な、おそらくは自分にしか見せてくれない顔を覗かせてくれたことがたまらなく喜ばしくもあり。
 だからこそ。

「ねぇ、ルーゼは冒険者になってよ」

「もちろんいいよ」

 簡単にうなづいてしまっていた。




 
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