言の笹舟 web小説レビューサイト

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アンチじゃない! 02



 青年の眼下に広がっているのは大型の旅館だった。
 京都に訪れる観光客を大人数泊められるほどのキャパと天然温泉を引いた大浴場のある、その名はホテル嵐山。
 内装は和風に統一されているが、建築様式は西暦になってからの最新技術を導入しているもの。
 18階建ての高さのある建物はこの街の古風さには似つかわしくはないが――ここは山の麓。周囲の外観に合わせる必要はなかった。
 無数に並んでいる窓からはいくつもの光が漏れている。

 今日は、複数の学校から修学旅行ということで学生たちが部屋をとっていてとくに賑わっているのだった。

 そこへ――

 とびっきりの不吉が振りかかろうとしていた。











「――ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 紡がれたのは力ある言葉。
 とうに日の沈んでいる時刻の風は冷たく、はるか上空の気流は荒い。
 だというのにそのワードは淀みなく音をなしていった。

 始動キーは唱えられた。
 賽は投げられた。






 アンチは、青年の知っている原作の平行世界に対して行っていくために限度なく行うことになる。
 合わせ鏡のように――とまではいかないものの類似する世界はそれなりに実在するらしく。
 一度滅ぼした世界をもう一回最初からやり直すことだってあるのだとか。

 ただいくつか面倒なことがあった。

 世界を滅ぼすには『主人公たち』を否定しなければならない。
 単純に殺せばいいわけではなく、殺すなら殺すで、痛めつけるなどして心をへし折ってから殺さなければならないとか。
 そうやって英雄の資格を損失させなければ≪養分≫は奪えないらしい。理屈はさっぱりだったが。

 そして、一度やったアンチに平行世界は耐性を持つという。
 例えばネギまのヒロイン勢を寝取ることでネギを弱体化させたとすると、一度は世界を滅ぼせるが、二度目からはうまくいかなくなるのだとか。見せつけプレイをして子供先生を絶望させようと、泣きながら走りだしたところで新ヒロインとぶつかるなどのオリ展開が用意されるらしい。その新ヒロインは旧ヒロインのすべてを上回るチート性能だったりして、あげく、自分は包丁で刺されるヤンデレエンドを迎えてしまうとか――ちなみにたとえ話が妙に詳しいのは前任者の末路だったかららしい。

 前任者のように『二次元キャラを好き勝手に弄びたい』という願望の持ち主だとすぐにアンチ内容がネタ切れになってしまうとかで、とくに漫画の中身には興味のない青年が後任に選ばれたとい裏話もあったりする。青年のように、事務的にやっていける人間は適正を持っているなかでは珍しいという。ちなみに適正とは『漫画などでこうだったらいいなとというIFストーリーの空想ばっかしていた人』らしく、幼馴染みの同人活動を手伝ううちに、金銭目的に確実に売れるエロ同人誌ばっかを描くようになった青年はぎりぎり有資格者らしい。

 ――閑話休題。

 青年はいったいどのようにアンチするのかを考えた。
 世界を滅ぼしてはまた次の世界へ、を繰り返すとするといろいろなパターンを試すのは当然として、問題となってくるのは一回目はどうするかということだった。まだまだ不慣れな青年にも実行できるものだということは前提条件。なおかつ、そのアンチによって備わる耐性が今後のアンチを邪魔しないものであることが重要だった。
 下手に、主人公ネギの矛盾点をつついて精神破壊まで追い込むという手法をとったら、次回以降、謎に精神強化された『僕の考えた最強の魔法先生』を敵に回すことになるのだ。別パターンのアンチをしたって成功させるのは困難だろう。ネギは精神面ではダメダメではあるもののスペック的には高いものにあるのだ。その弱点を取り除かれたら、影の――帝国のバックアップを活用しまくらなければ難しくなる。だが、そのバックアップとて無料ではなく使用料は成功報酬から差っ引かれるのだ。

 理想なのは、ゆっくりと時間をかけて経験を蓄積しながらバックアップをほとんど受けることなく一風変わったアンチをすることなのだが――時間をたっぷりとかけておいて、万が一、失敗してしまったらマズいことになる。新人などいつ切られたっておかしくないのだと青年は自分の立場を自覚していた。




 青年の選択したのは手堅く成功しておくことだった。
 
 影のバックアップによって手に入れたのは、ある原作キャラの容姿と能力。
 憑依ではない。

 そう――本物のフェイト・アーウェルンクスは別にいるのだ。

 今頃は、木乃香をさらっていった千草をなんらかの形でサポートしているのだろう。
 だから麻帆良生徒の宿泊しているホテルの上空で、魔法を発動させようとしているのはその偽物――青年だった。

「オー・タルタローイ・ケイメノン・バシレイオン・ネクローン・ファインサストー・ヘーミン・ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ――おお 地の底に眠る死者の宮殿よ、我らの下に姿を現せ」

 古典ギリシア語と日本語の二つの言語による二重詠唱によって、威力を高め、凶悪度を増した〈冥府の石柱〉は行使された。
 具現するのは、ちょっとしたビルくらいはある石柱。
 いったいどれほどの重量を持っているのか想像すらつかない大質量。
 これを空を飛んだままに召喚したのだ。
 サイコキネシスによって浮かせたりなどはしていないために一直線に落下していく。
 その先にはホテル嵐山があった。
 青年の狙い通りに。




 今後のことを考えると殺人には慣れといたほうがいいと青年は思った。
 そして、抵抗の少ない殺し方はどういうものかと考え、遠距離から一方的に殺害しようと計画した。

 それは相手を選べばそのままアンチに当てはまった。
 主人公のネギの英雄条件は、その生い立ち・魔力量・過去の事件・復讐心、闇の魔法適正・開発力などがある。
 しかし『魔法先生ネギま!』というタイトルを考えると『生徒との絆』というのが一番ではないだろうか。

 となると、その生徒らの大半を一度に奪ってしまえばアンチになるのではないか。

 ただそれだけのことでの大量虐殺だった。










 ――ここには主人公たちはいない。

 木乃香を誘拐していた千草を追いかけてネギパーティーは出ていっている。
 ちょうど月詠との初遭遇をしているところだろうか。
 居れば、主人公補正込みでぎりぎり石柱を撃ち落とせたのかもしれないがイベント中だ。
 召喚された石柱を送り返せるアーティファクト・ハマノツルギもここにはなかった。
 極大雷鳴クラスの攻撃力さえあれば、ホテルの下層くらいは守り切れたかもしれないが不在なものは仕方ない。

 ――いるものたちにいったいなにができる。

 もう一人の魔法先生たる瀬流彦にはこれほどの石柱をどうにかできる魔力はない。
 スナイパーでは少々威力が足りない。
 忍者とて同じく。
 格闘家などは問題外。

 これらの面々とあとは美空くらいが自分と周囲にいた人間を避難させられたら上出来といったところだろうか。


 規格外の吸血鬼はそもそもいない。

 だが、容赦なく巨大石柱は降ってくる。
 
 かくして、アンチと一言であらわすにはあまりに外道な手段で多くの命が失われようとしていた。
 これはもはや確定した運命。
 決まりきった未来がもうすぐそこにきていた。

 ホテルの屋上を石柱が粉砕するまであと10秒――。

 9。
 8。
 7。

 6。
 5。
 4。

 3。
 2。
 1。

 0……希望の物語が絶望に転じるその瞬間に、声が。

「そんな結末を見届けるために私は戻ってきたわけじゃないネ――」
 
 力強く。
 なによりも強い意志を込めて。

 ホテル嵐山の屋上にある鉄筋コンクリートが轟音を立てつつ砕け散る中、それ以上の侵入を許さず、拒む、少女が残っていた。




 
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