言の笹舟 web小説レビューサイト

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人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



魔法開発物語 01



 親父に呼ばれた。

 いつものようにアイツと一緒に家庭教師の授業を受け、魔法の自己鍛練をし、へとへとになって帰ってきたら使用人に言付けがされていた。
 これはいつにないことだった。
 名門貴族の執事長などをやっているせいで、親父はとくにここ数年は自宅に帰ってこれないほどの激務をこなしている。屋敷でも、外出しているとき以外には常に執事室にランプが点いているという、いつ寝ているのだろうとメイドたちに心配されるほどの忙しさなのだ。最近は廊下ですれちがったときに二言三言会話したことしかなかったというのに……なんなんだ、いったい? 
 わざわざ場所を用意されるほどの身に覚えはなかった。

 とはいえ、無視するわけにはいかない。






 空きっ腹をできるだけに気にしないようにしながら執務室に向かっていく。
 年単位使っていなかった執務室なんて掃除はされていたって使いにくそうなものだが……防諜目的か?
 あそこは外部にはもちろん使用人たちにすら情報の漏れない造りになっている。
 あまり表立ってはできない密談にはうってつけなのだ。
 そういう目的での場所ならば、俺程度には隠ぺいされているレベルの話があるということなのか。
 ここのところ、いつ戦争になっておかしくないほど国は荒れている。
 どんな話があったっておかしくはない。

 まぁ心の準備はこのくらいでいいだろう。

 俺は重たく分厚い扉を引き開けた。
 紙とインクの特有の匂い――これはあんまり嫌いじゃなかった。むしろ落ち着く。
 親父は立派な机の上の羽根ペンを止めることなく声をかけてきた。

「きたか」

「お待たせしましたか?」

「かまわない。ちょうど書き終えるところだ」

 言葉のままにタイミングが良かったのだろう。
 親父は腕を止め、こちらをまっすぐに見つめてきた。
 こんなにしっかりと対峙するのはいつ以来のことだっただろうか。すぐには思い出せない。

「いつ急用が入るがわからんので本題からさせてもらうぞ。
 お前は、このまま私の後を継ぎ、スリランサー家に生涯の忠誠を捧げるつもりはまったくないな?」

「バレてら」

「使用人を志している演技をするのならもっと口調を正しておくべきだったな」

 侮っていたかな。
 親父に指摘されたように俺はこのままスリランサー家の家来になるつもりはまったくなかった。
 まさに、性に合わない、としか言いようのない嫌悪感があるのだ。
 将来は使用人の長たる執事になるだろうからと受けさせられている授業だって、教養を受けるいい機会だから甘受しているに過ぎない。
 時がきたら家を出るつもりだった。

「お父上はご反対で?」

「まさか。我が子とはいえやる気のない部下などいらんさ」

 ふむ……これは本格的に親父というものを見誤っていたかもしれん。
 もっとスリランサー家に仕えるよう、杓子定規に説得してくるような頑固者だとばかり思っていた。
 まぁ理解しあえるほど話し合ったことはないのだから誤解はあっても仕方のない面はあるのだが……
 どうも一方的に理解されているとなるとなんとなく気まずい。

「全部バレているようだから言いますけど……来年、ライルが学園へいったあとに家を出て、趣味の魔法研究を活かせる職を探すつもりでした」

「何、その程度の計画性だったのか?」

「……すみません」

 これはこっぱずかしいぞ。本当はもっと華麗に家出する予定だったのにどうしてこうなった?
 だかまぁ、たしかに家を出てから職をみつけようとするなんて世間知らずと言われたって仕方のない計画性のなさだ。

「まあ、お前の人生だからかまわないが――その前に筋を通してもらうぞ」

「筋?」

「ああ、筋をだ。お前にこれまで食べされてきた食事・住ませてきた部屋・与えてきた衣服は、親として、私から与えてきたものだから返済する必要はない。だがな、最近お前がお坊ちゃんと共に受けさせられている授業は、将来家臣になると思われていたからこそ、スリランサー家によって授業料が支払われてきたのだ。この恩を忘れたままになど、スリランサー家の執事として、なにより親として、させるわけにはいかん」

「ごもっともで」

 うん、これは言われていればもっともすぎる話だな。
 自分で気付けなかったあたり、いかに自分が子供だったかを思い知らされる。

 あの授業は、貴族たる教養の他に魔法や護身術などそう簡単には学べない価値があるものだったのだ。
 親父が唯一お坊ちゃんと呼んでいる、名門スリランサー家の跡継ぎ、ライルと同じものなのだからその価値は計り知れない。
 金銭に換算すると……ちょっと考えたくない額になる。

「しかし、授業料を支払うまでは働いていけという話でしたなら……」

「お前には学園に通ってもらう」

「へっ?」

 執事見習いだけは断固拒否だと言おうとしたら、それをさえぎって、親父はとんでもないことを言い出した。

(ボケたのかよ、親父?)

 俺はただひたすらメイドたちにどう介護をお願いすればいいのか頭を悩ませるしかなかった。




 
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