言の笹舟 web小説レビューサイト

 ここでは私の趣味嗜好を基準にネット小説をご紹介させてもらってます。
人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



NARUTO~閉ざされし、されど鍵ある扉~ 119

 うちはサスケという少年は、アカデミー№1とされている。もちろん教師を除いてということだが、実戦となれば二三人ぐらいはサスケに負ける教師は出てくることだろう。つまり、それだけ末恐ろしい実力者であるということだ。

 だからこそ、第二の犠牲になったわけだが……。

 忍者学校の頂点にいるのが九尾の器だと認めたくないばかりに、サスケは一部の教師たちに持ち上げられた。彼らの理屈としては、どれだけ組み手が強かろうと印も結べない奴にうちは一族が負けるはずがない、というものだった。
 まぁ、言い分はわからなくもないが……そのナルトとサスケが組み手することを避けまくっている当事者たちのセリフとしては相応しくない。彼らとて、二人が戦えばどちらが勝つのかわかってしまっている。だからこそ、この二人の試合にならないよう翻弄しているというわけだ。サスケの記録上にだけ黒星を残さなければいいという、姑息な策略であった。
 昨年には、授業中にネジから挑戦状を叩きつけるという大事件があった。それは多くの生徒たちに目撃されるなか、十を数えないうちに返り討ちされてしまうという大惨事となってしまい、彼らの胸に教訓を刻ませるはめになる。






 ……絶対に、もう九尾の器と神輿を闘わせない!!

 ということで、二人一組の実戦形式な組み手がある時間――たいていナルトは訓練場の周囲を走らさせられている。指導員の横暴ではあるが、「ナルトの実力に触れ、自信を失ってしまっては子供たちの成長に悪影響をもたらす」という大義名分もあり、イルカの反対は押しきられてしまった。
 ちなみに、ナルトはその指示にまったく不満は覚えなかったという。ただ走っているだけのほうが、後遺症の残らないように壊れやすい子供たちを気絶させるより、よっぽど面倒が少なかったからである。
 ともあれ、ナルトと利害を一致させていった教師たちの戦略は冴えに冴え、サスケ自身は戦ってみたかったというのに、ことごとくチャンスをつぶしていった。その妄執ともいえる策略により、一ヵ月以上が経過しているというのに一戦とて成立することはなかったのだ。
 そういった事情があり、サスケは餓えていた。目の前に力試しにはもってこいの相手がいるというのに、よってたかって「お預け」と命じられる。相手もやる気ならどうにでも闘いに持ち込めるというのに、いまいち気乗りしないのか挑発しても流される。
 いい加減、堪忍袋が切れそうになったとき……ナルトから渡された紙切れに「四日後の午前十時、アカデミー第三訓練施設――試合を受けるときのみ、訪れること」と書いてあったのだ。
 これで、武者震いにならないわけがない。
 こうして――アカデミーは休日だというのに――サスケは第三訓練施設にきたというわけだ、ナルトと闘うために。
 なのだが、

「てめぇ……ナルト、何ほざきやかった?」

 ぎりぎりと、歯を噛み締めながらサスケがうなった。
 その獰猛な笑みを向けられたナルトは、ちっとも怒気を気にしてない顔でさらにぬかした。

「ん。もう難聴か? 若いのに……まぁいい、もう一度言いなおしてやる。試合相手はヒナタだ、オレじゃない」

 後半をはっきりくっきり一字ずつ発音してみせたナルトに、サスケは拳を震わせた。血をたぎらせ待ち望んでいた試合だというのに、それがナルトではなくぱっとしないヒナタが相手に化けたのだ。プライドだけは人一倍のサスケが怒るのは当然だ。
 たとえ日向一族だろうと、ヒナタにはっきりいって才能はない。総合成績は悪くはないが、点数を稼いでいるのは体術より筆記である。いまさら相手にする価値はない――それがサスケの認識である。自分と同じ血継限界を伝える家系じゃなかったら、気にもとめなかったはずの相手だ。
 なのに――

「ああ、オレ直々に挑戦されるような白昼夢を見てたのか? 寝呆けるなよ、うちはサスケ」

 ……なんだ、この言い草は?

 誤解を誘ったのは確信犯っぽいのに、これだけ悪怯れなくいられるとは。なんというか、ヒナタと関わるまでは教室に馴染めなかった理由がよくわかる発言だった。

「フン……はっきり言って、ヒナタは前菜にさえならねぇよ。くだくだ言ってねーぜ、さっさとかかってきやがれ」

 まだヒナタが到着していないことをいいことに、侮った発言をしたサスケだったが……ちょっと後悔することになる。

 なぜなら、ナルトが目だけを楽しげに笑わせたりしたから。

「不満か? なら――」

 ダダンッ! と、炸裂音に言葉が区切られた。ほぼ同時に鳴ったがために一つの音となった元とは、神速でサスケの足元に打ち込まれた小さな鉄球であった。それは脚絆の寸前を――両足の親指と紙一重なところに一つずつ弾痕を残している。
 ヒナタに羽虫と言われたのがよっぽど悔しかったのか、ナルトの本気な指弾である。その初速は手裏剣術とは比べものにならず、サスケはまったく反応できない。そのぽかーんとした表情にナルトは自信を取り戻したが――まぁ、どうでもいいことだ。

「一歩だ……一歩動けたら、オレが相手してやる」

 不敵な宣言をしたナルトはぴんっと指で鉄球を弾いてみせた。それを右手で握り締めると、身をひるがえして壁に向かって歩きだす。

「クッ……!」

 それだけの隙があるというのにサスケは動けなかった。ナルトは、とくにいつでも指弾ができるように構えているわけではない。なのに、どんな体勢からだろうと足を射抜くのに半瞬とてかからないと――わかってしまうだけの才があるだけに、微動だにできなくなってしまうサスケだった。
 これがキバなら動くだけはできただろう、結果は語るまでもないが。忍者の資質としてはどっちが正しいかはともかく、サスケは手痛くプライドを傷つけられた。

「くそったれが……」

 壁ぎわに座り込んだナルトはすっと目を閉じ、眠るかのようにうなだれた。そこまでしてるのに、居合いの構えをした達人に睨まれたような威圧をサスケは感じた――気のせいとかではなく、示された実力の一端によって無理矢理見る目を変えさせられたのだ。
 ナルトにはそれがわかっているから、もうまったくサスケを気にしない。
 それが、どれだけの屈辱なのか。
 おまえごときがオレに逆らうはずないだろ? という屈折した信頼がされているとわかっていながら、寝首をかくことさえできない。あっさり返り討ちされるだけの歴然とした力の差があり――サスケはただ立ち尽くすことしか出来ないし許されてはいない。
 ずっと踏み出そうとしているが……踏み出せない。怪我を覚悟したってどうすることもできない、明確な力の差に身体が従わなくなっている。そのことに苛立っているのに、サスケにはどうしようもなかった。
 そうして、ヒナタが到着するまでの五分。たっぷり時間はあったが、ナルト対サスケ戦は実現しなかったとさ。




 ナルトに言われた時間通りにヒナタを連れてきたイルカは、訓練場に漂っている不穏な気配に顔をしかめた。

「おい、ちょっとこいナルト」

 すぐさまイルカは呼び寄せ、ヒナタに安心させるような笑みを残し、壁ぎわに寄ると内緒話する体勢になった。
 座り込んでいるナルトの胸ぐらを掴むような勢いで、

「なんで、あんなに不機嫌になっている!? これから試合するってのに、ヒナタが危なくなるだろーが!」

 イルカは怒鳴りつけた。元々、いくらナルトに手ほどきしたからといって一週間は早すぎると思っていたのだ。だが、危なくなったら自分が止めに入ればいいと言い聞かせて試合を許可したのだ。自分からナルトに頼んだという弱みもあり、そうするしかなかったから……。
 けれど、あれだけ激怒していてはヒナタが重傷にしてしまうかもしれない。サスケは寸止めするぐらいの技量はあったが、怒りとはいつもより力を出させてしまう。なにかのはずみについ、ということになってもおかしくないのだ。
 すごい剣幕なイルカとは対照的なのが、楽観視しているナルトだった。

「案ずるな。仕込みは終わっている――勝つのは、ヒナタだ」

 ナルトはそう、予言した。




 だが、当の挑戦者――ヒナタは緊張しきっていた。
 なぜかいつも友達にキャーキャー騒がれているサスケが、殺気をはらんだ視線で睨んできているのだ。壁となっていたイルカ先生は離れてしまい、それを浴びせられたヒナタが硬直してしまうのは無理もない。
 そのままオドオドとしていたが、イルカとの話を終えてやってきたナルトが何かを囁くと、すっと嘘のように落ちついた。
 ぽんぽんとヒナタの頭を叩くと、ナルトは試合の邪魔にならない壁際に戻って行った。
 しかし、ナルトが近づいたことでさらに険悪な視線になったのに、離れてからもヒナタはもう動揺しなかった。いつも授業のとき挨拶する場所に歩むと、すでにその反対側に立っているサスケに、

「よろしくお願いします」

 と、試合開始の挨拶をした。
 機嫌の悪いサスケは黙って頭だけ下げる。それに合わせて、ヒナタは日向流柔拳法をとった。いつもだったらヒナタはこの段階で気持ちが負けているのだが、今回はいつも丸太に打ち込むときのように平常心が保たれている顔だった。
 だが、もう平常心などとっくにないサスケはその違いに気付かない。

「ん。そうだ……もう動いていいからな、うちはサケカス」

 ナルトから試合開始の合図が伝えられると、弾かれたようにサスケは動けた。

「わりぃが、茶番には付き合わねぇよ!」

(来た……!)

 サスケはまず牽制の左中段蹴りを放とうとして――転んだ。それはもう、スカッと気持ち良く。

「なっ……(どういうことだ!?)」

 すぐさま適切な受け身をとったサスケだったが、表情には出さないものの動揺は激しかった。まだヒナタとは距離があるというのに転ばされ――その仕組みがわからなかったからだ。
 紐のようなもので転ばされたのならともかく、踏み出したときに突き飛ばされたといった感覚だった。なのに、サスケの周囲にはそれらしいものがないことは立ち上がるときに確認済みである。

「(風遁か? イヤ……違う、そうだったら風の音がしなければおかしい――どういうトリックだ?)」

 侮っていたという油断を捨て、サスケは神経を尖らしながらヒナタを眺めた。ヒナタの構えは変わらず、日向流のまま――印を結んだような形跡はなく、見逃したというわけではなさそうだ。
 注意深く、じっくりと観察することにしたサスケ。動きを止めてしまったままだったが、ヒナタからその隙に攻撃を仕掛けることはなかった。じっと、逆に見透かすような視線で受けに回っている。

「チッ……試してみるしかねぇか……」

 もう一度喰らうしかないと決心したサスケはまた動こうとした。同じ手で攻撃されたときに倒されないよう重心が安定するすり足で。その判断はけっして悪いものではないのだが、

「ご、ごめんなさい……」

 まだ、甘い。謝罪しながらヒナタは見えない攻撃を仕掛け、サスケの左足を押し込んだ。サスケは反射的に踏み堪えようとして――その瞬間、さっきより勢いよく右肩を押されてしまい、あっけなく床に転がることになった。
 間合いは、まだまだ子供の足幅だと十歩はある。なのに、ヒナタは触れもせずサスケを転ばせられ、サスケの拳や蹴りはヒナタに届くことはない。
 この時点で、ヒナタの優勢は確定した。




「ナルト……おめぇ、ヒナタにどんな術を教えやがった?」

 予想外の展開となってしまい、イルカは半目になってナルトを問い詰めた。
 ああいった離れた相手を転ばせる術など、イルカは見たことがない。いくつかは心当たりあったが、そのどれもが印を必要とする。それに、木ノ葉流や日向流とは違った技術体系に基づいた技っぽいと思ったわけだ。
 つまり、教えたのはこの非常識な金髪小僧しかいないということになる。

「等価交換という言葉を知っているか、イルカ」

「なんだか……性格悪くなっちまってねぇか? 一段と」

「そう誉めるな。オレを誉めたところで、『代償』と『契約』という言葉の意味を教えるぐらいしかできないからな」

 いつになく上機嫌っぽいナルトは、楽しげにしながらも情報料を支払えと要求した。もしかすると、イルカに何かを奢らせるのは条件反射の域になっているのかもしれない。
 まぁ、それだけ甘えているということなのかもしれないが……これでまた財布は軽くなるという未来に変わりはない。頑張っているのに報われないなぁ、イルカ先生って。
 ともあれ、こりずに転ばされてるサスケを眺めながら、ナルトは説明をはじめた。

「あれは"遠当て"による"投げ"だ。――全てが、チャクラによるな」

「なにぃ……そんなことが可能なのか?」

「ヒナタの家系は先祖代々、日向流柔拳法を受け継いできたんだ。"放出"に適した体質になってくるのは当然の進化だろう? それだけのことだ」

 あっさりナルトは言うが、常識人のイルカはまだ納得できなかった。それだけ、ナルトの言っていることがとんでもないことなのだから。
 まだ、日向家の遺伝というのは納得できる。必ず"倍化の術"には欠かせないぽよよんとした体格になる秋道一族という例もあることだし、どうやったら人為的に優秀な子を作れるのかという研究をしている医療忍者だっている。最終的には血継限界に辿り着く、そういった遺伝という概念は馴染みやすいものだったからだ。
 だが、"遠当て"というのは一種の達人にのみ習得できる技(放出したチャクラをぶつけるだけ)だし、"投げ"というのは暗器や毒物が行き交う忍の戦いでは廃れていった技である。それらを日向家の柔拳と組み合わせれば、たしかにこの現象は理解できるけど……心情的には納得できない。
 ――しかし。
 一週間足らずで"遠当て"を習得してしまったヒナタ。
 独自の理論により"投げ"を実戦的な術としてしまったナルト。

「(これは、とんでもない奴らを引き合わせちまったか?)」

 そんなことを考えたイルカに、

「ん。この出会いにだけは感謝してやろうか? もう一生ないチャンスだな、喜べ」

 そんなことをナルトは言ったりして。
 しかし、無表情に隠れた表情を読み取れてしまうイルカは、

「(あーあ……まぁ、いっか)」

 と、思ってしまったとか。












 昨日、ふて寝から帰ってきたナルトがやったことはヒナタとの組み手だった。あれだけの苦労したかいがあってか、ヒナタも遠慮なく攻撃を仕掛けられるようになり、いくつかの問題点をナルトが指摘すると見違えたように動きが良くなった。
 危うく、ナルトの中心線の一番下にある急所をつぶしかけたりするというハプニングがあったりしたが、これまでの一週間ではもっとも密度の高い成果が上がったかもしれない。
 だが、しかし。
 ちょっとやちっと特訓したぐらいで、サスケに勝てるようになるわけではなく――殺すつもりなら話は別だが、手加減しながら闘うのにはまだまだ経験が足りなかった。ナルトみたいにまったく柔拳が効かない相手とばっかり組み手したあとにサスケとやれば、これぐらい大丈夫かなっというぐらいので殺してしまいかねない。
 実戦形式の試合だと走り回りながら柔拳を使わなければならず、それだと稽古のときはできていたチャクラコントロールをミスってしまいかねないからだ。いくらナルトとて、イルカも監督にいるのにぶっつけ本番でサスケが気絶するぐらいに手加減できるかどうか試すつもりはなかった。
 まぁ、イルカがいなかったら……試してみたかもしれないが。
 こうなるのを見越していたナルトが"棒を倒さない"訓練をやらせていたのは、柔拳以外の技を身につかせるだめであった。それが"遠当て"による"投げ"なのだが、それを教えるにあたってのセリフというのが、

「ん。"棒を倒さない"ことができるのに"サスケを倒すための術"ができないはずないだろ」

 であり、それを1+2=3になるのは当然だろって顔でナルトは言いきった。ヒナタは、人間は二本足歩行する生き物なのだから一生逆立ちしたって支障はない、と言われたような顔になったけれど。
 あふあふと常識を諭そうとしたヒナタだったが、どことなくデタラメなナルトの言葉によって、いつのまにか逆に説得されてしまっていた。ついには「うん、そうだよね」と信じてしまったヒナタに、ナルトが悪い大人に誘拐されないか心配になったというのは余談かもしれない。
 ともあれ、アカデミー生が習得できるはずのない"遠当て"だというのに、その難易度を正常に認識できなくなたヒナタは、どうにかコツを掴むことができた。
 あとは、わざとナルトが隙を作ってヒナタがすかさず投げ飛ばすという、実戦的な稽古ばかりしていたのだった。
 そして、隙を見逃してしまうと『猫遊ばれ』という罰ゲームがあったりもしたからか、どうにかヒナタは"投げ"を付け焼き刃ではあるが使えるようになったのであった。
 ちなみに、ナルトが"投げ"を思いついたのは猫と遊んでいたときだったという逸話があって、罰ゲームはそういう理由で決められたりしたが――どうでもいいことだ。
 こうして、ヒナタが"遠当て"による"投げ"を習得したときナルトは明日に向けてこう指示をした。
 それは目茶苦茶なことに、


「勝ちを望むな、戦術を考えるな、投げる以外のことはするな」


 というものだったが、これにはちゃんとした理由があった。
 勝敗というものを目にしたら、まず「勝ち」を譲ってしまうのがヒナタという少女である。まったく忍者の適性というものが欠けているようだが、それを見抜いたナルトはさらにこう言った。


「勝とうとするから萎縮する。だから、とにかく投げ飛ばせ」


 とにかく勝負だということを忘れさせて、稽古のときのように"投げ"ることに専念させるための言葉だった。
 このコーチは的中したのか、試合前不安になっていたところに「昨日言ったことを思い出せ、ヒナタ」とナルトが言っただけで落ち着いてくれた。
 そういったアドバイスもあり、ヒナタは有利に試合を進めていたのだが……




「ぐはっ!」

 木ノ葉秘伝の合板に叩きつけられ、ごほごほっとサスケはむせた。地に這うのは何度目なのかはわからないが、サスケの動きは鈍くなっていってるのは明白だった。それに疲労すればするほど、受け身のタイミングは合わなくなっていき、投げの衝撃を逃がせなくなっていく。
 それに、いくら受け身をとろうと蓄積していったダメージは消えない。まだ身体の出来上がってないのだから、あと数回投げられれば動けなくなってしまうことだろう。

「チッ……もう一度だ!」

 けれど、地面に拳を打ちつけるようにしてサスケは身を起こす。そのまま間合いを詰めようとして、ヒナタに"遠当て"を二度三度とぶつけられるが――こらえる。踏み止まらずに足を滑らせながら後退し、衝撃を受け流しているのだ。
 それだけでは近付くこともできないし、まだ反撃できていなかったのだが、

「はぁ……はぁ……」

 ノーダメージなはずのヒナタの呼吸が乱れつつあった。
 一方的な有利な立場でありながら、ヒナタの体力は限界だった。すでに昨晩倒れてしまいそうになるまで"放出"していたのに、また今"白眼"を使いながら攻撃を繰り返しているのだ、仕方あるまい。

「もう疲れちまったのか、お姫様」

 とっくに残り体力が乏しいことに、サスケは気付いていた。軽口をたたきような余裕ができつつあるサスケは、焦らずに防御にだけ専念している。もう攻撃の素振りだけ見せてヒナタに"遠当て"をさせれば、もう自滅してくれると思っているかもしれない。
 身体はだるいはずなのに、サスケはまだピンピンしているように呼吸を無理矢理静めた。演技でしかないが、白眼にてそれを見せ付けられたヒナタは余計に疲れたはずだ。ここいらの駆け引きができるあたりが、ナルトがいなければ名実ともにアカデミー№1になっていた要因なのかもしれない。
 攻撃をヒットさせずにして、ヒナタを追い詰めつつあるサスケだった。




「そんな……ナルト、お前ヒナタに投げること以外を禁じたって!?」

 どういった指導をしていたのか聞き出していたイルカは、ついに黙っていなくなって絶叫した。
 どっちかというと、それはサスケにとってのハンデになるからだ。
 サスケが地面に転がっているときいくらでも追撃のしようはあったのに、さっきからヒナタは見送っている。学校の形式にあった試合だからと禁止された手裏剣術以外にもやりようはあったのに、だ。
 それはナルトの言い付けを守っているからに他ならない。
 だったが、とくに指示ミスとはナルトとは思ってないようだった。

「お前は教師なんだろ、イルカ――その目は節穴か? よく知らないが、ヒナタは争うことを恐れてる。自由意志に任せてたら、勝負になりもしない」

「う……そうかもしれないけどよ、言い過ぎだろ」

「ん? 真実だろ。まず方法はともあれ、サスケに勝たせて自信つけさせないと話にならない。オレと組み手するときだけマシになっても、オレ以外に殺されては意味がないからな」

 まぁ、普通に闘わせたら即降参しかねないヒナタだけど……気に入ってたって、評価は厳しいナルトだった。誰かと一緒なら迷惑にならないよう闘えるヒナタだったが、一人っきりだとメンタル面がもろすぎる。
 ナルトが声をかければ闘わせることは出来るけど、それでは根本的な解決にはならない。ヒナタには荒療治かもしれないが、短時間で強くなってもらいたいらしいナルトだった。

「だ、だからって、勝てなかったら意味ないだろ……えっ、オレなんか変なこと言ったか?」

 不安げにしながらも問題点を指摘したイルカだったか、ナルトに軽蔑されたような冷ややかな視線で見据えられた。

「造花作りのしすぎか……いや、ついに食えなくなって脳が栄養不足になったか? 貧乏教師ことイルカ」

「だから、何故にそうなる?」

 本心からわかってなさそうなイルカに、

「写輪眼がどういうものなのか、オレは知らないが……それに目覚めても、ヒナタの勝ちは揺るがない。あいつの実力と戦闘センスは(アカデミー生にしては)悪くはないが、相手が悪くなりすぎた」

 そう育てたのはオレだと、さりげなく自慢したナルトだったがその戦況を見る目に曇りはなかった。
 即下忍になるだけの実力はあるサスケだったが、ヒナタの攻防一体な術を破るだけの力は持っていない。からめ手の幻術などは白眼に封じられるため、圧倒的に不利な体術を使うしかなく――持久戦に持ち込み、堪え忍んでいるだけで、術そのものを破ったわけではないのだから。
 唯一問題なのは体力面だけだったが。

「根性だけはあるからな、勝つのは――ヒナタだ」

 ずっと稽古に付き合ってきたナルトは、二度目の予言をしたとさ。




 少しずつ、審判二人の会話を聞きかじったこともあり、サスケにもこの術の紹介がわかってきた。"遠当て"とは、チャクラを放出するときの衝撃波による攻撃。ただ"押す"だけだから威力は低いが、それを補うためにバランスを狂わせて"投げ"にすることにより、相手自身の体重と勢いを味方にしているのだろう。

「手間取らせやがって……ネタさえわかれば簡単だ」

 それだけわかれば対処のしようがある。"遠当て"の発生源は、もっともチャクラコントロールしやすい掌しかない。つまり掌を向けたほうにしかチャクラは飛ばず、また印を結ばずに放出したチャクラは真っすぐにしか動けない。
 だから、ヒナタの掌にだけ集中さえしてればどこを狙っているのかがわかる。あとはヒナタがチャクラを撃った反動で動いたとき、躱せばいい。手裏剣より"遠当て"は遅く、それなら回避するのはサスケにしては容易いことだ。
 だったが、

「(なっ……身体が、重い……!)」

 それは、万全だったらのこと。"遠当て"のチャクラはわずかに付着していって、サスケの体力を意識させずに削りとっていた。疲れたとき、まず最初に影響が出るのは敏捷性だということを計算に入れてなかっただろう、サスケは。
 足が動かなくなって、サスケは前のめりに倒れていき。

(今……!)

 絶好のチャンスに、初めてヒナタが踏み出した。
 左手を突き出すようにしながら、まだ七歩はある間合いを詰める踏み込み。だが、もう疲れているのか、半分ほどの位置で目測を誤ったのかヒナタは止まってしまった。当然、必殺の掌は届いていない。
 あちゃあ、とイルカが顔に手をやったが。

「勝負あったな……よくやった、ヒナタ」

 不意に、どかんとサスケが吹っ飛んだ。本人もなにがあったのかわからない顔をしながら壁に叩きつけられ、訳がわからないまま気絶した。
 なんか、さっぱりだが――勝者ヒナタ!




 すでに放出したチャクラを押し出すことにより、さらに加速させる。つまりヒナタが踏み出した速度がそのまま加算されることになり、体重の軽い子供ぐらいは吹っ飛ばせる勢いになるのだ。
 これが、最後にヒナタがやった技だ。相手が動かなくなって投げられないときのために、ナルトに教えられていた切り札。
 それにチャクラを使いきってしまったのか、へたりと座り込んでしまったヒナタだった。まだサスケに勝てたことを信じれないのか、夢から覚めてないかのように惚けている。すっと、そこに影が差した。

「ナルトくん……私?」

 ポンっと、ヒナタの頭に手をのっけたナルトだった。試合前にやったときとは違って、乱れてしまった髪を撫でるようにして整える。

「ん。勝ったのは、お前だ」

 じんわりと言葉が染み渡ったのか、ヒナタは泣きそうになってしまった。
 ゆっくりと、ただナルトは髪を撫でる。
 その後にイルカが――サスケを見て気絶しているだけだと言ったあと――色々とヒナタを誉めたりしたが、素っ気ない一言のほうがヒナタは嬉しかったとか。


 しかし。
 もし猫の躾け方が、そのままナルトの教育方針になっていることを知っていたら。
 ヒナタは素直に喜べたのだろうか?
 ちょっと、疑問だったとか。




 
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