言の笹舟 web小説レビューサイト

 ここでは私の趣味嗜好を基準にネット小説をご紹介させてもらってます。
人気小説・ランキング上位のもの・捜索依頼されているものなどを読んで、気に入ったもののみレビューします。
2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



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SKILL COLLECTOR【HUNTER×HUNTER 二次創作】[07-助言 5-]

 ジャポンとアイジエン大陸の最西端を結んだ直線の中央にある海上。

 このポイントに、とある島があることは表向きには公表されてはいなかった。

 念を修行中の高弟や本能的にオーラを行使する魔獣などが押し込められた人工の秘境――幽玄島。

 ここに百の念能力を習得したという逸話を残すことになる"伝説のスキルコレクター"が生まれようとしていた。

 この物語は、念の秘密を解き明かさんとあがく一人のトリッパーの物語である。







 この二人はいったい何のために闘っているのだろうか――?

 試験とも、教授とも、試合とも、殺し合いともつかない展開の連続は不自然だった。 
 通常はこのような流れになることはありえない。
 ちょっとぶつかってはべらべらと喋ってもう一方は聞き入っているなんてことはまずないのだ。

 
 整理をしていこう。


 カジキは何のために闘っているのか。

 大前提に絶対服従すべし恩師の命だということはある。
 武門の常識として、仁義として、大恩ある師匠の依頼に断るわけにはいかないのだ。
 しかし、かといってカジキは嫌々かというとそうでもなかった。

 まずはアイディアを提供したという責任感とどういう形になったのかという好奇心。
 オーラを別の精神エネルギーにするというまったく新しいアプローチを見てみたいという気持ちもある。
 調査して、さらなる発展の余地があるなら助言をして、もっと成長した念を観察できるようになるよう誘導したいという思惑だってあった。

 あるいは部活の後輩の面倒を見るような、自分より未熟なものに技術を教え込むのは楽しいものだという感覚。
 自分は人様にものを教えられるほどの立派な人間なのだという再確認。
 念に関する知識のコレクションを自慢したいというコレクター特有の欲求。

 これらの大小様々な思いは、へたな矛盾を起こすことなくカジキの内部に存在していた。
 彼は「僕って、後輩の世話を焼くふりをして自分の技術を自慢したいだけの最低人間だ……」なんてことは間違っても思わない。
 一挙両得、win-winといった言葉で片づけてしまうのだ。
 善人とはとても言えないエゴの塊である。




 ルッケルは何のために闘っているのか。

 第一にあったのは、前例にない念能力だということにまつわる不安を解消するためだった。
 アイディアの種を提供してくれて、また、次々に念能力をコロシアムにて披露しているカジキと試合をすれば何かを掴めると思ったのだ。
 正確には、そう思っていたのをガジリンが汲み取ってくれただけで口に出すほど明確に固まった考えではなかったのだが。

 この師匠の思惑はうまくいった。
 自分の個別能力を誤解するという最悪を避けられるようになったのだから大成功だった。

 しかし、うまくいきすぎた。
 ルッケルとガジリンの思っている以上にカジキの解析能力は進んでいたのだ。

 本来絶対に知られてはならない能力の詳細まで知られてしまった。
 これは、苦労の末に斬新なトリックを編み出してブレイクし始めたマジシャンが、テレビでよくネタばらしをする先輩マジシャンに「どういうパフォーマンスをしたらもっと売れるようになるのか?」と相談していたら、どういうわけか虎の子のトリックまで見抜かれてしまったようなものである。これが推理小説の中だったら殺人事件に発展すること間違いなしの事態だった。

 ルッケルはマジシャンではなく武芸者だ。
 よってかかってくるのは人気と出演費ではなく己の命なのだ。
 放置しておける事柄ではない。

 とはいえ、その能力(トリック)に致命的な欠陥があるとすれば聞いておきたくなるのは当たり前だった。




 そういう互いの意識の喰い合わせによって変なことになっていた最終テストではあるが。
 まだまだぐたくだは続くようだった。












 ……燃えている。

 真っ赤に、赤々と、その炎は燃え盛っている。
 掲げられた掌の上に爛々と輝く火球は周囲一帯を朱色に染めていた。
 カジキの掲げているライターは松明以上の火炎を尽きることなく噴き上げ、球状に留めているのだった。
 ナイフと交換に取り出されたのはちょっと高価そうとはいえ普通のライターだというのに。

 オーラのせいなのだろうか。

 この火球、中心部分はほんのりと黄色いという色合いから察するに温度はさほど高くはない。
 なのに……その炎には本能的に警戒したくなる『何か』を帯びていた。
 触れてはならない、危ないものだと、そう訴えてくるようなものを秘めているようで――

「そんなに怯えなくたっていいよ。
 これは単にライターの火に"周"をしているだけなんだから。
 オーラだって、僕が力むことなく発射できる念弾一発分くらいしか込めていないし」

 カジキはそういったもののルッケルの警戒心は解かれなかった。
 何を仕掛けてくるのかわからない相手なのだから当然の対応といえた。

 しかし。
 念を込めている張本人は火元のすぐ近くにいながら涼しげな顔をしている。
 肌は赤くなっているようなのに汗一つかいていない。

 ルッケルにはまるで人間じゃないように――悪魔のごとく、映っていた。

 だが、カジキはそんな少年すら楽しげに観察しているのだった。


「僕たちは目に"凝"をすることでオーラを視認している。
 けど、その情報はどこまで信じていいのだと思う?
 人の目は簡単に錯覚を引き起こすよ。でも、それはオーラの場合だって同様のことは言えるんじゃないのかな。……というのも僕の研究テーマの一つなんだ」

 ――この火球、君にはいったいどのように見えているかな。
 ――けど、威力的にはしょぼいんだよ。 
 ――ただ単に『人を焼く』っていう概念を強化してみただけだしね。






「……あなたは」

 問いかけようとして、結局、ルッケルは続きを述べることなく押し黙ってしまった。

 あっさりと『人を焼く』ということを言葉にしたカジキ。
 ルッケルは師に武道というものを――武芸者というものはどういう風に生きていくべきなのかという倫理観を教え込まれている。
 だからこそ、目の前の男には沸き起こってくる反発心はあったのだが。

 念のアイディアをくれた恩人で。
 こちらから試験の手伝いを頼んだというのに。
 念能力の詳細を見抜かれたからといって殺そうとしてしまったのだ。

 どの口で言えるというのだろうか。

 頭の中で思考がぐるぐると入り混じりって整理がつかないため、ルッケルは言葉にできなかったのだ。






 だが、カジキは半端となった問いを黙殺して進めていく。

 炎をゆらゆらと揺らしながら。

「"堅"の使い手同士の試合は、いかに攻防力を割り振るかが勝敗を分けることも珍しくはない。
 だから僕は"隠"以外の手段によって、どのぐらいのオーラを割けば防御できるのかを正常に判断できなくできるかを考えた。
 そして、身の危険を感じるものにオーラを込めると実際以上に警戒心を持たれることに気付いたんだよ。
 こうするとどんな達人だって、本来無傷でガードできるようになる量の五割以上のオーラを振ってくれるんだ」

 カジキの説明が正しいとするならば。
 それは放出系に比べると適正において劣る強化系の技能ながら念弾以上にオーラを削れることになる。
 しかし、幾度と繰り返せばたいていの念能力者ならば適量を判断できるようになるはずだ。
 まぁ、それはライターのみに"周"をしたときの場合の話ではあるが。
 カジキの懐に小型のスタンガンやレンズが入っていることなど、どうでもいいことなのだろう。

 どのみち適正を欠いた能力に致命傷になるほどの威力は望めない。
 能力者の"纏"や"堅"を突破するのはなかなか大変なのだ。
 だからこそ恐怖を覚えるだけで危険性は少ない、高台にあるガラスっぽい透明な床みたいなものだった。

 とはいえ――ルッケルのように各属性に対応する能力に欠陥がある相手に大火傷を負わせるくらいの威力は込められる。
 対応できれば無傷、対応できなかったら大けが。非常にわかりやすい。

 そういった説明のもろもろを省いたうえでカジキは言う。

「つまり、念能力者にとってもこの炎は恐怖に対象になるんだ。だから君の道力を検証するにはぴったりなんだよ」

「……どういうことでしょうか?」

「うーん、説明するよりかはやってみたほうが早いよ。じゃあ、この火球は避けちゃダメだからね」

 一方的に告げるとカジキはライターの上に丸まっていた炎を発射した。
 身振り手振りはなくとも彼の思念通りに撃ちだされるのだった。

 ゆっくりとした、小学生のドッチボールくらいの速度のソレはかわそうと思えばいとも簡単にかわせるものだ。
 しかし、カジキの言葉はルッケルの足を縛りつける。

 たが、ルッケルにとって逃げるという選択肢は元々なかった。
 師との修行のときにはロケットランチャーの一撃を受け止めるところまでいったのだ。
 道力というのは、このくらいの炎に耐えられないほど融通のきかない精神エネルギーではないのだ。

 ――押忍ッ!

 ルッケルは真正面から受け止める覚悟を決めた。
 その決心をスイッチに、道力は少年の心理を反映させはじめた。

 道力の知られざる特徴の一つに、能力者の感情の揺れ幅に左右されないというものがある。正確には道力を具現化する一瞬のみしか影響しないのだ。オーラに比べて六分の一以下という維持コストを持続するにはすぐ感化される性質は邪魔だったのだ。よって、一度具現化されたあとの道力は、能力者がぼんやりしていようと怒りで頭が真っ白になっていようと鼻の下を伸ばしていようと一定の防御性能を保ち続けることなる。
 その結果として、能力者の防衛本能に基づくオーラの属性の切り替えがなくなって、さらにオーラのロスを減らすことになったのだが……このあたりは無意識に処理された部分だった。
 だからこそ、制約と誓約みたいに絶対のルールではなくて、ファジーに処理できる部分が残っている。

 例えば、心の中の掛け声一つで道力を再構築できるようになるなどの。
 炎に強い性質を持った概念を道力に宿せるなどの。

 激突と共に轟音と火の粉を撒き散らした火球だっだが――対象は揺るがない。
 腰を落としての正拳一発。
 たったそれだけの行為によって人一人を火だるまにするには事足りる熱量は撃墜された。

 ここは普通の能力者だったら酸素を奪われてむせかえるどころだろうが。
 ルッケルの道力は宇宙服のように体全体を覆っている膜という形状をとっている。
 体表から3センチほどの厚さしかないが、この道力の膜の内部にあった酸素は無事だったため短期間なら呼吸に苦しむことはなかった。
 そして、その短期間が過ぎるころには熱気を帯びた空気は風によって洗い流されていた。
 火球は完全にガードされてしまっていた。

 しかし――

「疾ッ!」

 ――炸裂した炎は視界を塞ぐ役割はしっかりと果たしていた。
 地面を滑るかのように接近していたカジキの拳が鳩尾に突き刺さる。
 そう、突き刺さったのだった。
 あれほどの堅固さを誇っていた道力のガードをものともせずに。

 体を九の字に折り曲げて苦痛にうめくルッケルに追撃を仕掛けることなくカジキはバックステップを踏んだ。
 このまま勝負を決める気はないということなのだろう。

「な、なんで……」

 ルッケルにはわけがわからなかった。
 煙幕代わりになった火球は、彼のまとっている道力の一割すら削ることはできていなかった。
 その程度の消費は一秒あれば補充されるために貫手を受けたときにはほぼ万全の状態だったはずなのである。
 さらには今現在もなお道力のガードは健在なのだ。
 つまり、道力を自動的に防御箇所に集中させる能力が発揮されなかったということ。

「普段、自動(オート)に発動する属性変化を手玉に取っている僕だよ。手動(マニュアル)相手にできないわけがないよ」

 困惑しているルッケルに回答が示される。

「"纏"に使われているデフォルトのオーラは『耐物理』と『耐念』の性質を帯びている。
 けど、『耐物理』のほうはどのような概念を込められたかによって変化していく――『耐衝撃』『耐圧力』『耐火』といったものと取って代わってしまうんだよ。
 だから『耐火』と『耐念』に特化している君の道力は僕の『身体能力をオーラで強化した拳』を満足に防げなかったんだ。
 これが『パンチ力をオーラで強化した拳』だったなら『耐念』の概念は残っているから防げただろうけどね」

 つまりは"纏"ではスタンガンの一撃を防御できないというのと原理的には変わらないことなのだと。
 想定外の攻撃だったためにオートガードは発動しなかったのだと。
 カジキはそう告げていた。

「そのくらいの打撃にヨロってないでよく話を聞いていなよ。
 いいことっていうのはこれだけなんだから――
 念というのは奥深いもので、このオーラに概念を宿すっていう技術にも上級技があるものなんだよ――有名じゃないけどね」

 言い終わったときには、またもや魔法のようにすっと手の中へナイフが現れていた。
 カジキはもう片方の手にライターを握ったまま、腕を八の字に、炎が刃を舐めていくように構え。


「概念というのは、共通点さえあれば掛け合わせることができるんだ」


 右手のナイフに"周"を。
 左手のライターの"周"を。


 刃と炎を交錯させて、小さく「合体」と呟き――「紅蓮一閃」と唱えた。

「いやはや、制約とはいえこういう必殺技っぽい掛け声は照れ臭いんだけど……『フレイムソード』!」

 カジキがそう気恥ずかしそうに言ったときには炎は渦巻き、刀身にからみついていた。
 伸びたオーラは刃の延長線上にかたちとなって、火炎を取り込み、あたかも焔そのものが剣になったかのようだった。
 バーナーの火を薄く薄く引く伸ばしたかのような『焼き切る』という概念を宿した念となったのだ。

 どこのアニメかっていうほどの派手さだった。

「こういうみたいに概念は掛け合わせることができる。
 まぁ、『焼く』という概念と『耐雷』の概念みたいに関連性を想像できないものは個別能力にでもしないと厳しいけどね。
 君だったら防御という共通点のある『対物理』と『耐火』を兼ね備えることができるはずだよ。
 ……普通はそういう訓練をしていって感覚を掴むことだけど。
 ここには人の本能に訴える恐怖の炎があるんだ。この直撃を喰らいそうになったら生存本能で一気に習得できるよ」

 カジキはとんでもないことを言い出した。
 師匠の過酷極まりない修行に慣れ切ったためだと言うのか。
 もはや日本人の言い草とは思えない発言だった。

 焼くと斬るを同時に行う焔の刃――これは火炎を剣状に整えたのではなくに斬るという概念も持っている。
 両方を同時に防御できない限りはダメージを与えてくる凶悪な剣なのだった。

 が。
 武芸者として洗脳を受けてきたルッケルにとってはこのくらいの試練は日常である。
 彼は胸を張って堂々と答えた。

「押忍。望むところです」

 そういって半身に構える。
 言葉の力強さとは裏腹に刃物から逃れやすい姿勢だった。
 これは一度でできなくとも何回だってチャレンジしてやるという、道力を貫かれることを前提とした対応だ。
 潔い。




 そっからはカジキの一方的な攻撃だった。

 剣を――刀を専門としているキサキを師匠としているだけあってカジキの剣は様になっている。
 ルッケルはどうにか致命傷になる部位に充てられるのだけは回避しているものの、服にはいくつもの焦げ跡ができていた。
 何度撫で斬られたことなのか数えきれないくらいの斬撃だった。
 露出している部分の肌はぼろぼろになっている。

 しかしその成果はあったらしく。

 カジキはたまにライターとナイフの両方に"周"をして補充をしつつ、そのたびに火力を高めていっている。
 なのにルッケルへの与ダメージはしだいに減ってきていた。
 かすめるくらいの攻撃は避けなくなっていたのだ。
 そのくらいならばもはや焦げることはない。

 道力によるチートな防御性能が火炎と斬撃の同時攻撃に対応しつつあった。
 
「だいだい慣れてきたみたいだから――きついのいくよ」

 ゆらりとカジキが構える。
 宣言通りにきつい、下手な相手にはそれで勝負を決められるほどの必殺技の予備動作。
 それは距離をとってナイフに纏っていた炎を消すことから始まった。

 ナイフを覆うように伸びていた秘色の炎の中からあらわれるのは真っ赤に灼熱した刀身だった。

 長時間焔の中にあっただけに帯びている熱はかなりのもの。
 カジキはそこへさらなるオーラを注ぎ込んだ。

 ナイフの表面にうっすらと――しかし濃密にあるオーラは赤く染まっていき、紅蓮と化す。
 炎ではないのに、燃え盛っているかのような色だった。
 それはライターから派生する『熱』という概念にダガーの『貫通力』の概念を加えられたマグマをも超える力。








(あれは、今までみたいな虚仮威しじゃない!)

 ルッケルは直感していた。

 先ほどからその身に受けている炎剣は実のところはたいした攻撃力を持ってはいない。念弾換算だと二発か三発くらいのオーラだ。そのオーラ量をふまえると妥当なくらいの攻撃力しか持ってはいない。
 正直、相性の悪い道力によるガードを捨ててしまえば楽に防ぐことはできるのだ。
 ただ単純に『耐火』に秀でたオーラを体に"纏"ってしまえばいい。
 そうやってしまうと『斬る』部分は素通りにはなる。が、木の柱を切断できるくらいの一撃だったならば筋肉によって受け止められる。眼球だの首筋だのといったよっぽどの急所じゃない限りは耐えることができる。オーラを使わず、それこそ"絶"状態だったとしてもだ。いわゆる困難の分割という考えによって、炎と斬撃をわけてみると炎剣を防ぐことはルッケルにとっては容易だった。

 しかし、あえて焼きただれるのを覚悟して受け止めていたのは道力をレベルアップさせるための修行だったからである。 
 そうじゃなかったら問題のある攻撃じゃなかったのだ。

 ……けれど。

 次にくる一撃は、一時間前のルッケルが喰らったとするならば即死させられていたモノだと。
 武芸者の直感はそうささやいていた。
 限界ギリギリまで具現させた道力だろうとオーラによる"堅"だろうと。
 どれほど準備万端に待ち構えていようと『溶かし貫かれる』イメージしか湧いてこなかったことだろう。

 込められたオーラが段違いだった。

 紅蓮のオーラはとうに本体たる短剣を溶かし切っていた。
 ライターのほうもなにかに耐えきれなかったかのごとく爆散している。

 カジキはそんなことは気にも留めずにオーラを刃状に維持したまま宙に浮かべていた。
 彼はゆっくりと2歩3歩と下がっていく。
 そして、周囲に陽炎を揺らめかしている熱源から距離をとると耐熱用に"纏"っていたオーラさえ念弾に振り分けた。

 本人の言っていたように一度『耐熱』という概念に割いたオーラは、普通の"纏"はもちろん、念弾に使うことはできなくなる。
 だが、熱を帯びた灼熱の念弾をコーディングするには『耐熱』の概念ほど適しているものもない。
 結果的には余熱を放出しなくなったため、実際の内部はさらに凶悪な熱量を秘めるようになったのだった。

 結果的には、"纏"に一切オーラを回すことなく"発"に注ぎ込んでいる、変則の"硬"ともいえる一撃になっているのだから。

 ルッケルの直感は間違っていなかった。
 これはもう素の肉体で耐えられるレベルを超越している。

 おそらくはオーラで『耐熱』と『耐斬』の概念を兼ね備える上級技を使うようになったとしても、強化系じゃないルッケルでは防ぎきれない。
 本家の強化系以上の防御効率を誇っている道力を概念攻撃に対応させないと死ぬことになる。
 そういう荒行中の荒行だった。


(けど、俺だって感覚を掴めてきているんです!)


 ルッケルは自分の纏っている道力に意識をやった。もともとこの道力は万物に宿るという神々のご加護をイメージしたもの。特定の属性に対応できないようなものじゃない。あと制約と誓約を一つか二つか付け加えることで、どんな攻撃にも対応できるようになる完全体はなんとなく頭に浮かびあがってきている。それを実現させるには時間は足りないが、さきほどからさんざん受けさせられた熱に関する攻撃だったら、もう完璧にできそうだったのだ。

「『ヒーティング・ダガ―』」

 十字受けの構えをとったルッケルの確信を見抜いたのか、灼熱の刃は静かに発射された。
 ごくりと喉が鳴る。

 そして。

 直後――撒き散らされた熱がコロシアムの地面にあるわずかな水分を蒸発させた。












 風が吹き、霧は流され、試合場の視界は澄み渡ったものになった。

 観客席のエレナはじっと様子を伺っている。
 そして、二人の師匠のうちガジリンのほうは口の端を持ちあげているのだった。

 長さ1メートルほどの溝を二本ほど掘っていながら、なお、両腕を交差させているルッケル。袖の部分の生地は全滅しているものの彼の四肢に消し炭になっている部分はなかった。そう、耐えきったのだった。ついさきほど存在を知らされたばかりの上級技を見事体得してみせたのだ。己の為した偉業にじわじわと悦びが沸き起こったのか顔がほこらんでいき。

 ゆっくりと近寄ってきていたカジキに強張った。

 つかつかと。
 散歩に出かけているかのような歩みで。
 すぐそこまで迫ってきている。

 十字受けの構えのため、重ねられている両腕にカジキの手が添えられる。
 そのくらい互いの距離は縮まっていて。

 ぺっと、ルッケルの眼球めがけて吐き出される唾があった。
 意識の狭間を縫うかのような突拍子のない無礼にも道力のオートガードは発動、唾液は拒まれる。

「なっ――」

 しかし驚きによって、ほんのわずかにルッケルの重心は乱れたのだった。

 掴んだ腕を引かれるままにゴロンと横へ倒される。
 呆気にとられているルッケルはなんら抵抗らしい抵抗を行うことはできなかった。

 そのまま蹴るというか足で押すかのようにルッケルの体を回転させ。
 ちょうど足元にきた少年の頭にカジキは踵を踏み下ろした。
 真下に脳みそがある額めがけて。

「というように、属性攻撃を克服をしたって君の道力はまだまだ弱点は残っているんだよ」

 死を覚悟させられる鉄槌のごとき一撃に硬直するルッケルへ、カジキののんびりとした解説が降り注いだ。
 今、ルッケルとカジキの間に道力の壁はない。
 流れるような"硬"の一撃によって、灼熱の刃の念弾から再構築を果たし切れていなかった道力は破られたのだった。

 これは概念どうこうということじゃなく、純粋な力技によってだ。

 パラパラと土汚れが落ちていっていることに気付いたのか、カジキの足は引き揚げられる。
 その間ずっとルッケルはぽかーんとした顔になっていた。
 理解の追いついていない様子である。

「刃状の念弾を飛ばしたときに気付いたんだけどね。
 頬一枚かすめる程度のコースだったなら当たる部分だけ防御すればいいっていうのに、君の道力にぶつかった念弾は全部がまとめて相殺されていた。
 ってことは、君のオートガードのその利便性の為に無駄なロスも抱え込んでいるってことになる」

 カジキはとんとんと地面を踏んで。

「普通、こんな"硬"の攻撃をガードしたら地面のほうにもヒビが入るんだよ。
 なのに君の場合はこんなにも綺麗だ。綺麗すぎる。受け身っていうことがまったくなっていない。
 本来逃せるはずの衝撃まで道力によって防いでいるから消費が半端なく膨れ上がるんだ。だから足りなくなって破られる」

 もうちょっとオートガードの定義付けを考え直したほうがいいよ、と、カジキは言うとそのまま離れていった。
 そのまま背を向けながら。

「まぁごちゃごちゃ言わせてもらったけど、君の道力はかなり優れている能力なことは間違いないよ。二つ言った課題をどうにかできたら、オーラ量が五分五分の相手になら九割以上の勝率を誇れるようになるんじゃないのかな。操作系の発動条件を満たしてしまったらやばいけど、これはどんな能力者にも言えることだし」

 カジキは最終テストの評価をまとめていっていた。
 強化系じゃ、君に勝てる相手はいなくなるんじゃないかなとかなりの高評価である。

 しかし、そんな背中を見つめながらよろよろと立ちあがったルッケルの顔には納得のいっていない色があった。
 一時は殺す気でいったのに、カジキはいつでも殺そうと思えばいつでも自分を殺せて、最後はいいようにやられたのだ。
 不満を抱いてしまうのも無理はなかった。

 そこで――
 カジキはくるりと振り返って、

「けど、この道力のためだけに二年を使うほど君は容量悪くないよね。あるんでしょ、奥の手が。
 せっかくだから披露していきなよ」

 と言った。

(あっ……やっぱこの人の相手はもういいや)

 先ほどの不満はどこにやら。
 ルッケルはどっとやってくる倦怠感にうなだれるのだった。
 かくして、見事『ルッケルの苦手な人ランキング』の一位にランクインすることにあいなったカジキなのであった。
 昨日はヒーロー扱いだったということをふまえるとかなりの堕ちっぷりである。






 名称 / 即興合体(カスタマイズフュージョン)

 主系統 / 強化系("周"は強化系の能力のため)
 副系統 / 変化系("周"によって変化させたオーラを媒体から離しても維持する能力)

 効果 / "周"によって媒体の属性に染まったオーラをそのまま維持し(この技術は"染/セン"という)、
     もう一つの概念に染まったオーラと合成する。
     合成後のイメージを持てなければ合成は失敗する。そのイメージにあった技名を口にしなければならない。
     一日、三つの媒体にしか"周"をできなくなる。『回数の制限』
     その媒体でこれまでに"周"をした総時間が長いほど効果は上昇する。『愛用品効果』

 制約 / 百時間以上"周"をしたことのある媒体でなければ合成に用いることはできない。

 メモ / "周"を練習&研究中に開発された能力。
     その便利さと多様性からもっとも長期間カジキに使われていた個別能力。
     3年以上ロストしなかった。

 ○○ / 変化系の習得率及び威力・精度に+3%のボーナス
     AOPに+50、MOPに+300のスペシャルボーナス






【設定考察をウリにしている小説なのに、独自設定をひたすら説明していくシーンを書くのに飽きてきたのは内緒の話】




 
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