言の笹舟 web小説レビューサイト

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2013年はこのブログだけでなくやる夫スレでも頑張っていきますよー!



SKILL COLLECTOR 【ハンター×ハンター 小説二次】[02-試合-]

 ジャポンとアイジエン大陸の最西端を結んだ直線の中央にある海上。

 このポイントに、とある島があることは表向きには公表されてはいなかった。

 念を修行中の高弟や本能的にオーラを行使する魔獣などが押し込められた人工の秘境――幽玄島。

 ここに百の念能力を習得したという逸話を残すことになる"伝説のスキルコレクター"が生まれようとしていた。

 この物語は、念の秘密を解き明かさんとあがく一人のトリッパーの物語である。







「念の法則というのは、正しいのか正しくないのかを見極めるのはひどく難しい。
 何故なら、自分を納得させられる理屈ならば実際にはどんなに的外れだろうと念の威力は増減に関わってくるからな」

 そう解説されているのは、アビーとは違う、学校にいたらきっと成績上位者だろうなっていう顔の娘だった。
 彼女の名はエレナ。本人は認めようとしていないけどアビーの異母妹だった。
 まぁ、そのあたりは複雑な家庭の事情として。

 エレナは放出系という共通項を持っているカジキとよく議論を闘わせているのである。
 今日のところはカジキのターンだが、エレナのほうから自論を述べることだって珍しくはない。

「それが厄介なところなのよね。
 下手に矛盾点を残しているとその矛盾に気づいてしまったときを境に個別能力が使えなくなるかもしれないんだから」

「ああ、己の中の整合性を失ったとき思いこみでつくられた念能力は崩壊する。
 とくに完膚なきまでに敗北したときなど精神的に不安定になっているときなどにこの現象は発生する――調査していったら、失恋をきっかけに能力を使えなくなった人とかはいたけどな」

「けど、逆にいうなら、思いこむことさえできればたいていの不条理は押し通せる。いえ、条理になるわ」

 エレナは紙コップの紅茶を一口飲んだ。
 安っぽい容器だというのに高貴オーラの漂う優雅な仕草である。
 貴族の出らしい師匠の影響なのだろう。彼女の性格的に、目の前にこの上ない手本がいるのなら放っておきはしないのだから。

「で。今回はいったいどんな応用技を見つけたっていうのよ?」

 挑発的に見つめながらエレナは問いかける。

「その前に確認しておこうか。今回のルールは『念能力の新しい使い道を先に見つけたほうが勝ち』で、敗者は、次の飲み会に秘蔵の品を持ってきなければならない。僕はウーヴィンの1987年で……」

「私はガルバーの人工海底ワイン1875年もの。人魚の出るという海域に鎮められ、本来は15年後に引き上げられるはずだったのに、回収に出向いた船がことごとく難破したという曰くつきの品。とあるハンターによって引き上げられたときには3000本のうち21本しか残されていなかったという幻の美酒よ。あなたにとられちゃうのかしら?」

 からかうような響き。

「いやさ、唯一、蜘蛛に盗られていない最後の一本なんていう爆弾は処理するに限るでしょ。踏ん切りをつけさせてあげるってだけさ」

 しばらくあいつには関わりたくないしね、とカジキは呟いた。
 エレナはカジキがつい漏らした意外な接点に目をパチクリとさせたがどうせ白状しないだろうと追及しなかった。
 このあたりは裏社会を――マフィア側ではなくハンター側として――生きてきたからこそ、さらりと自然にできる気遣いだった。

「さて、本題に入ろうか」

 カジキはそういう優しさを見せた金髪美人に笑みを浮かべつつそう仕切りなおした。
 言えないことを察してくれる相手だからこそ、彼はエレナが好きだった。
 有意義な議論をすることこそ最大のお礼になると言葉を続けていく。

「例えば、放出系の能力によって『自分以外は通さない壁』を創った場合は、念能力者本人はまるでその壁をないかのように透り抜けることができる。だが、具現化系の能力によって創った場合はその壁が扉のように開くという過程を踏まなければ通ることはできない。さて、この二つの性質の違いはどこにあるのでしょうか?」

「具現化系は、"顕現"したその瞬間からある程度は物理法則に縛られるってことでしょう? 変化系はまだ"概念"と半々だから例外はあるけど」

 エレナはすぐに回答してみせた。
 ここまではこれまでに散々意見交換してきた部分のおさらいだった。
 
「そう、そしてその具現化系の要素――"顕現"は念弾にも無意識のうちに含まれている。物理ダメージを増やすために」

「どちらかというと変化系の分類でしょうけど」

「まぁ個人差の範疇だよ。どちらにしよ"顕現"が混ざっていることには違いがない」

 けど、とカジキはいかにも企んでいますっていう顔をして言葉を紡ぐ。

「まったく"顕現"を含んでいない念弾があったとしたら、どうなると思う?」

「ほとんどじゃなくってまったく? だったら壁抜けぐらいはできそうだけど攻撃力は0になるんじゃないの。命中の瞬間だけ"顕現"させるとかできるのなら別だけど。ああ、操作系の能力との相性はいいかもしれないわね」

「今までの理屈からだとそうなるよね」

 カジキは自信ありげにそう答えると立ちあがった。
 自分の分の紙コップをゴミ箱に放り投げるとそのまま入っていくのを見もせずに出口へと向かう。

「その先は――僕の試合を見ていてよ、エレナ」

 死者の出ることすらある試合直前、選手控室の一コマであった。










 幽玄島、ほぼ中央にあるコロシアムは毎日のように念能力同士の試合を開催している。
 ジャポンのリュウキューと同程度の広さのある島に住んでいる、約3割の住民は武芸者なのだ。一人が一カ月に一度参加したとするとこのくらいの間隔にはなる。
 試合の性質は日によって異なっていて、同門同士のちょっとした大会だったり、他流派試合だったり、見世物としての性質を帯びたショーだったりもする。観客を制限しているときもあれば、念を知っているお金持ちのスポンサーを招いて賞品をつけていることもある。コロシアム内部の試合場を使うのが大半だがときには島のどこかということもあって、ほんとうにすべてが日替わりと言えた。

 そして、主にカジキの参加しているのは観戦するにはチケットを買わなければならないタイプのものだった。

 チケット制は、幽玄島のなかでもとびきり色ものに属しているものだった。
 いわゆるレスラーみたいなパフォーマンス主体の試合や、派手になるように事前に打ち合わせされている八百長試合が横行していたからだ。

 だが、カジキの参加する試合は違った。

 カジキは八百長をしているわけでもパフォーマンスばかりをしているわけでもない。
 ただ十数種類の念能力を駆使しながら闘っていくだけだ。

 全員が"メモリ"などという原作にあったような法則を知っていたわけではない。
 けれど念をかじったものにならあきらかにおかしいと思うほど一人には多すぎる能力の種類だったのだ。
 その秘密を知りたいと思ってしまうのは当然の心理だった。

 双子説三つ子説クローン説が流布し。
 さらには「波瀬カジキの秘密」というタイトルのでたらめ本が高値で取引される。
 そういうとんでもない衝撃が業界を襲ったのである。

 故に本来は、金持ちたちが買っていくチケットは優先権を持つ武芸者たちに独占され、そのためオークション形式のVIP席に高値がついていった。一試合ごとにカジキの懐へ10億ジェニーが流れ込むと言われているほど白熱しているのだった。天空闘技場の190階クラスのギャラは2億で、その報酬には有料チャンネルに放送された分の収入が入っていることを考えると、どれほどの凄さなのかがよくわかる。




 そこはバスケットコートを二面並べたくらいの広さの場所だった。
 その土のグラウンドを囲むように観客席は配置されているのだったが……がらがらだった。

「すみませんね、こっちの要望に応えてもらって。どうも観客に見られながら試合するのは苦手でして」

「構わないぜー、観られていることには違いないんだからギャラは変わんねーしな」

 二人が対峙しているのは現実空間ではなかった。
 とある能力者による、神字の刻まれている範囲内を複製した亜空間なのである。
 観客席は誰もいないようで、実は七つに多重複製された空間が埋まるほどの賑わいを見せている。
 もっとも歓声の一つも届かないようになっているのだが。

 別に観客席の一つと繋げることは可能なのだがカジキの要望によってこういう形になっている。
 小細工を主体に戦うカジキにとって、野次にまぎれて手品のタネが明かされてしまうとピンチになるための条件だった。

「観客いないとやる気出ませんってタチでもねーしな」

「それは良かった」

 カジキの対戦相手は、ベリーショートの髪を紫色に染めている身長180センチの男だった。
 チャイナ服っぽい民族衣装を着ているのだが、クロコダイル皮に無理やり金糸銀糸をとりつけたような派手な格好をしている。
 きっと彼の故郷ではこういうチンピラが溢れているのだろうという外観だった。

「じゃ、さっそく始めようか。僕にはたいそうな前口上を考えられるセンスはないからね」

「おいおいそう言うなよ。噂の『奇術師』と戦えるって楽しみにしてきたんだぜ? せっかくなんだから手品のタネの一つや二つ教えてくれよ」

「それは勝ってからにしてください。負けたら、希望者にはネタばらしするようにしていますから」

 カジキのその台詞をきっかけに男は動いた。
 それが試合の始まりとなる。

「だったらさっさとぶちのめされろやっ!」

 男の突き出した腕に従うように、虚空から半透明の液体が現れては鞭となって襲いかかる。
 いや、鞭というには太すぎる……丸太ぐらいのものがしなやかに振るわれていた。けれどそのスピードは鞭そのものといって過言ではない。
 先端部分は音速を超えている大質量にソニックブームはばしばし発生し、地面に大きな溝が刻まれていた。

 それらを、カジキはまずは様子見とバックステップして観察していた。

「変化系の能力か。液体状に変化させたオーラを武器に戦うスタイルと……この量と早さは洒落にならないな」

 牽制程度のオーラを込めた念弾を、直線的に、曲線的に、そして自由自在に軌道を変化させながら撃ちだしてみるもののすべてが撃ち落とされる。
 けっして念弾の速度は遅かったわけではなくこちらも音速程度には達していたのだ。
 なのに容易く防がれた。

「半径10メートル前後が円になっていてその内部なら自由にコントロールできるわけか。近距離・中距離なら無敵だな」

 パワー・スピード・コントロール――基本性能のすべてが上位にあるにもかかわらず、おそらくは液体という特性を生かしたいやらしい攻撃手段も残していることだろう。そういう顔をしているとカジキは目に"凝"をしながら判断を下していた。たぶん、一度捕まえられるとそのまま溺れさせられると確信する。

 そのチートさから観客を集めるカジキに相応しい力量を備えた対戦相手だった。
 が。

 簡単に能力を分析させてくれた相手にもうカジキの興味はなかった。
 水の触手の先端が切り離され、砲弾となって迫ってくるが、その程度のことは予想済みなのでオーラを足元から噴出して回避する。
 脚力の強化をした足で地面を蹴った直後にさらに放出系の能力でオーラを噴き出すことで、瞬間的になら、強化系の移動速度を上回れるというのは放出系能力者の強みだった。

 かわされたとはいえ、有利に試合を進められたので男は笑った。

「へっへ、噂のわりにはこんなものかよ。さっさと自慢と手品とやらを出したらどうだ?」

「じゃあお言葉に甘えましてご披露させていただきますか」

「……へぇ」

 試合場に緊張がはしった。

 気負いなく宣言されたカジキによるショーの開始。
 過去、どれほどの武芸者たちがその手品に翻弄されて地に伏してきたことなのか。

 時空を超え、観客たちも固唾をのんで見守っていた。
 その中のエレナは「さっさと見せなさいよ、バカ」と言い、アビーは「カジキ兄さんのショータイムですぅ」とはしゃいでいた。

 男は水による攻撃を止め、自分の周囲を何層にも巻きつけ防御を固めていた。
 こうなるともう念弾程度では傷つけられる可能性はなくなる。

 そして。

「――ぐわっ、ガ!」

 男が苦痛にうめいた。
 その顎には念が炸裂したことを示すオーラの残滓が残っていた。 

「なぁ、どっからきやがった?」

「まぁ最初だから手加減させてもらったけど徐々に強くしていくよ」

 カジキは余裕たっぷりに言うと手を軽く振った。

 男の体が二度三度と続けざまに揺れる。
 男は必至に水の触手を振り回してなんとか防ごうとしているのだがその触手に当たるものはなにもなかった。

 水によるガードを諦めたのか、操作のほうは放棄して、"堅"で耐え目に"凝"をしてからくりを見抜こうと男はあがく。
 さらに五回の攻撃を喰らったあとようやく男はその念弾に気付いた。

「し、下だと?」

「あれ……気付かれちゃいましたか。そうですよ、単純に念弾を地中に潜らせていただけですよ」

 男は茫然となった。
 彼もまた歴戦のツワモノ。それが『だけ』と言いあらわされるものではないとわかる。

 上下左右前後を見回していた彼は運よく念弾が飛び出てくる瞬間を目撃したのだが、その念弾は地面を掘り返しながらきたわけではない。砂一粒動かすことすらなく猛スピードで撃ちだされてきた。しかもかなりのオーラを集めた"凝"をしていたのにまったく兆候を見つけられなかったのだ。なにか騙されている気さえする悪辣さに"奇術師"の渾名が脳裏に蘇る。

「てめぇ、まさか"隠"までしやがっているというのかよ!?」

「それこそまさか。新技にまで"隠"をするにはまだまだ修行が足りませんよ、僕は」

「だったらなんだってんだよ!?」

「念弾から無駄なオーラを漏らさないように練習しただけですよ。いわば、念弾一つ一つの"絶"ってことになりますね」

 本来秘めるべき秘密をあっさりとカジキは述べてしまう。
 まぁ日常的にこういうことをしているからカジキの試合は大金を払ってでも見る価値はあると思われているのだが。

 カジキは掌の上に、ガラスの玉みたいな透明感のある念弾を創りだした。
 その念弾には普通はある、湯気や陽炎みたいなオーラの揺らぎはまったくなかった。
 これではどんなに精度の高い"凝"をしようとカーテンの裏に隠れただけで見えなくなってしまうことだろう。

 そしてそれをゆっくりと足元に落としていく。

 すっと地面の中に溶け込んでいく念弾は見えなくなっていった。
 なかば減り込んだ状態など、念能力者にとってはとてつもなく衝撃的な光景だったことだろう。

 これがたんなる念弾の間はまだたいした驚異ではない。
 けど、操作系などの能力と組み合わされた場合にどれほどの猛威をふるうことになるのか。
 そういうことを考えるととんでもない技法である。

 一方。

「あとは……地中から迫ってくる念弾をどのくらい察知できるかだな」

 カジキは男に聞こえない小声でぽつりとつぶやいていた。
 彼は、師匠のキサキには簡単に見破られてしまっていたからこの技にはさほどの価値を感じていなかったのだ。
 たんなる理論を検証するためだけにやってみた技にすぎないのだ。

 そんな考えを知ったとしたら男は激怒したことだろう。

 ちなみに、彼の師匠のキサキはその五感を"凝"によって強化してオーラの認識できるようにする技法の最上級系たる個別能力を所持していて、この地中を潜ってくる念弾をやってみせたときは、自然にある土のオーラと念弾がこすれあったことによるオーラ臭と振動を感知して、軽々と回避されてしまった。

 だから今回は実戦を通じてのエレナへのお披露目と普通の念能力者なら感知することはできるのかという調査だった。
 じゃなければ、最初に威力マックスにしといた一撃で試合を終えている。

「地面に潜ったものを撃墜することはできないか。これは使えるかな?」

 だが、もうそこからはとても試合と言えるものではなかった。
 一方的にカジキが念弾を地面経由で放っていく。

 男は必死に水の触手を地面にたたきつけるもののグラウンドにヒビが入っていくだけで、タイミングをみはからって飛び上がってくる念弾にほとんど対応できていない。どうやら地中の様子を捉えられないようだった。念弾は別に常に真下から飛び出るわげてはない。背後から横から死角を責めていき、こけにするかのように目の前から上がってきて顔面を撃つことすらあった。

 念弾を使うとき、よくあるのは敵の念能力に撃ち落とされることだった。
 けど、大地という最高の盾越しに仕掛けてくる念弾を対応するスベを男は持っていなかった。

 堅によってガードはされているけど、ちょっとずつダメージは蓄積されていく。
 いつくるかわからない念弾のためずっと"堅"をしていなければならないというのは、長期戦になればなるほど不利ということだった。
 "堅"というのは維持しているだけでもオーラを消費していくという燃費の悪さがあるのだから。

 観客はもはや飽き始めていた。
 ずっと似たような展開が続いているのだからしかたがない。
 観客たちの興味は今度の手品はどういうトリックなのかという点に移っていて、観客席には議論が巻き起こっていた。
 やんややんやと活発に意見が交わされる。

 試合を見守っているほうが少数派になる有様だった。

 では、なぜ男はギブアップをしていなかったのか。
 それが今明かされようとしていた。

 男は鼻と後頭部の両方から念弾を直撃させられてとボロボロだったが、鼻血をぬぐいながらも、威勢よくほえたてた。

「……いってぇな。ったく、だが条件は整ったぜ。まさかこの俺が何の目的もなくボコられっぱなしになっていたと思っていやがったのか?」

 どうやらなんらかの制約を満たすために頑張っていたらしい。
 ダメージ量なのか、時間なのか、水でガードした相手のオーラの総量なのかはわからないが、ようやく達成できたっぽかった。

「ルール上は認められている降参をしなかったのはなにかと思っていたけどね。せっかくだから見せてもらうかな」

「その余裕後悔するぜ。死んだって文句言うなよ。この形態になった俺様は手加減なんぞできないんだからな」

 そう言った男の周囲にドッと大量の水が現れていく。
 まるでどこかの滝から切り取ってきたみたいな有様だった。

 三秒あれば風呂一つを満たせそうなほどの勢いをカジキは試合場ぎりぎりまで下がって見守っていた。

 触手がふるえる。
 触手が増える。
 触手が太くなっていく。

 それはなにかとてつもなく大きな生き物のようであった。
 その頭部らしきものに男は立ち、忌々しい地面を見下げながら高度をあげていっていた。

 造形が甘く、かなりおおまかにしか形作られていないがそれは巨大な蛇……海蛇のように見受けられた。
 やがて塔がぐにゃぐにゃにうねっているかのごとき巨体が完成する。

「レヴィアタンモード――こうなった俺を止められるやつはそうはいないぜ。今までみたいに器用な使い方はできなくなるがこの質量の前には関係ねぇ!」

 そう自信満々にうそぶく男。だったが。

「バカだなぁ、君は。鳥を落とせぬ猟師がいるとでも?」

 放出系に空戦を挑むなどは無謀の極み。
 男は、眼下に輝く百を超える念弾に師匠の言葉を思い出すのだったが……手遅れだった。

 ギブアップするまで延々と浮かされる無限コンポが待っていた。

 頭部の上という一番無防備なところにいるために念弾を防ぐことができなく、全弾が直撃、そのまま気絶して終わりだった。
 一度でも攻勢に回ることができれば勝機はあったのだろうが。
 いくらなんでも、そんな即死しかねない攻撃を悠長に待っていられるほどカジキは慢心していなかった。
 これが放出系以外の能力者ならば、あの高さではたいていの攻撃は届かなかっただろうが――まぁ勝負事にそういうもしもは言いっこなしである。

 カジキと男の試合は、かくしてカジキの勝利に終わったのだった。








「あなた、そのうち死ぬわよ」

「手痛いなー。まぁ、今日はちょっと油断しすぎたったかもしれないね」

「かも、じゃなくって、間違いなく油断のしすぎよ。最後のアレは隙だらけの大技だったから良かったものの、下手に条件を達成されたら、そのまま逆転されてしまうことのほうが多いのよ。そのくらいのことはわかっていると思っていたのは私の勘違いなのかしら?」

「いやさぁ、念能力者の奥の手を見られる機会なんて滅多にないからつい……」

「ついじゃないわよ! まったくもう、私のパートナーがそんなことでは困るのよ。しっかりしなさい」

「あはは」

 エレナに説教されているのはカジキの家だった。
 今日は師匠のキサキは島の外に出かけているために、深夜、一つ屋根の下で二人っきりとなっているのだが色気のない会話が続いていた。

 その後10分ほど命を大切にしなさいというお説教が続き、カジキはその間正座させられていたが、ようやく話は変わる。

「それで……いったいどういうトリックを使ったのよ。壁抜け、地潜りできるってことは"顕現"させてないなら納得できるけど、そうなってくるとなんで物理ダメージを与えられたのか説明つかなくなるわよ」

 寝室のベッドに腰かけているエレナは己の疑問を述べた。
 カジキは痺れる足をどうにか動かしイスの上に這い上がっていった。

「エレナの疑問は、物理エネルギーになる媒体がないってことだよね。強化系だったら自分の肉体、操作系だったら愛用品、具現化系だった"顕現"させたオーラそのものが媒体になる。けど、媒体とセットになったオーラはよっぽど特殊な付与効果をつけないかぎり、壁抜けさせることはできない――そういうのが数少ないオーラを研究する学者たちの中では定説だった」

「ええ。だから私は試合前にまったく"顕現"していない念弾の攻撃力は0になると予想した。けど――結果は違っていた」

 エレナはまっすぐにカジキを見つめ。

「あなたの念弾はたしかに地中を進んでいったのに物理ダメージを与えていた。常識を覆した。私にはできなかったことをやっみせた。だから、私はあなたに教えを請いたいわ」

 真正面からそう告げた。

 一瞬、何を言われたのか態度の違いにカジキの理解は追いつかなかった。
 さっきまで説教をしていたエレナが「請う」と低姿勢に出ていた。これまでなかったことだ。

 神秘的な碧い瞳に見つめられたカジキは困ったように応じた。
 どこか焦ったような感じで。

「いや、さ。もとからそういうルールの賭けだっただろう。研究の成果の代価にワインを提供するってさ」

「そのワインだっていつも一緒に飲んでいるじゃない」

「君のときもそうだろう」

「私が勝てるのは4回に1回程度でしょ」

 カジキのミスはエレナのプライドの高さを読み間違えていたことだろう。
 だから――

「あの賭けは互いの力量が肩を並べていたから成り立っていたのよ。だからこそ、5年間、同期だった私たちはやってこれていた。けど、ここ1年は明らかに違っていたわ。私のほうが一方的に恩恵を受けている」

 ――彼女につらいことを言わせることになった。

「それって……私が体であなたのアイディアを貰っているみたいじゃない?」








「な、なにを――?」

 なにを言っているのという疑問は塗りつぶされる。

「一般的にはそう見られるっことよ。そして、私はそう言われても否定することはできないってこと」

「でも、僕とエレナは――」

「恋人同士よ。あなたのことは愛している。けど、それとこれとは別問題なのよ。武芸者にとって惚れたはれたを理由にした技術のやりとりは認められていないの」 

 言われてみてわからないほどカジキは愚かではない。
 念とは、秘匿されるべき存在なのだ。
 それは念能力者は一般人に教えてはならないというものだけではない。
 高位の実力者が格下のものにぽんぽん伝授するということもけっして褒められたものではないのだ。

 カジキがコロシアムでやってきたような試合を通じて一部明かすというところまでがぎりぎりのグレーゾーンで、それすらいい顔をしていない人間がいるのも事実なのだ。

 同門でも、師弟でもない。アビーに対するような初歩の手ほどきでもない。
 エレナに対する高難度の応用技の伝授はダブーなのだ。

「わかっているでしょ。もう私はあなたと対等のライバルと名乗れなくなっているのよ」

 エレナはけっして弱いわけじゃない。
 修練を怠ってきたわけでもない。
 だが、オーラの総量はカジキの8割ほどで、同じく放出系。エレナにできることはたいていカジキもできるという下位互換と上位互換みたいな関係にあるのも事実だった。

「けど、僕はまだこれからもエレナと付き合っていきたいよ」

「私もよ。でも、そうするには金銭なりなんなりで私のことを雇って、あなたが上、私は下、ってことを周囲に示さなければならないのよ。そうすれば師弟に類似する関係として文句は言われることなくなるわ」

 事前に考えていたのだろう。悩んでいたのだろう。エレナはすでに練ってあったことを述べた。

「それで――エレナはいいの? 僕の下につくという体裁になっても」

「プライベートの関係まで変わるわけじゃないわ。ただ、外にいるときはそれなりの態度をとらないとダメってくらいだもの」

 そうは言うものの同期の下につくというのは屈辱的だろう。
 それでも、そう言いだしてまで一緒にいてくれるというエレナの意図をくみ、カジキは決断を下した。

「……わかった。エレナのことを、念の研究の助手としてと試合関係のマネージャーとして雇うよ。あと資産管理もできるよね。給料はちょっと相場調べないとわからないけど周囲から文句の出ない金額。そして、念に関する指導を報酬のうちに織り込むよ」

「はい。これからよろしくお願いいたします、波瀬先生」

 エレナが立ちあがって礼をする。
 それをカジキがうなづき受け入れる。たったそれだけの儀式だったがそれでも二人の関係が変わったのは事実だった。

 で、何事もなかったようにカジキは語る。語る。語る。

「まったく"顕現"の要素を含まない念弾というものをやってみた人はいなかった。だから、僕はやってみた。その結果面白いことがわかったんだ」

「やっぱり実証してみることは大切なのですね」

「媒体がないのに物理ダメージを与えられる理由はね、相手の肉体そのものを媒体にしてしまっているからなんだよ。そのまんまだったら適している"概念"がないから媒体にできないけど、『殴る』っていう"概念"を込めた念弾をぶつける直前、念能力者は無意識のうちに"纏"や"堅"に『殴られたくない』っていう"概念"をつけてしまうからね。そのオーラの媒体になっている肉体に、『殴られたくない』オーラのダメージが働くから間接的には物理ダメージも与えたことができるんだ」

「そういうからくりが――でも、それなら"絶"をしたら無効にされるのではないですか? 波瀬先生」

「理論上はね。"纏"を1としたとき通常の"絶"は0.1~から0.01程度。0にすることを修行を重ねていけばできるんだろうけど、すぐ近くに猛スピードで念弾が迫っているときにそんなことをできる念能力者はそうはいないよ。無意識に"堅"をしちゃう。漫画とかによく出てくる【無の境地】や【明鏡止水】を悟らないとできないんじゃないかな――かなぁ」

 なんでかなぁ……そういう呟きがカジキからこぼれる。
 エレナは、つまみを作ってきますわ、とスーツを脱ぐとエプロン片手に部屋を出て行った。

 カジキの部屋でカジキは一人になった。

「――なんでかなぁ。僕はただ念を調べていくのが楽しいだけなのに。そのことを人に自慢しまくりたいだけなのに。なのになんで、エレナにまで迷惑をかけることになっちゃうのかなぁ……」



 だから、カジキはボロボロと泣いた。




 カジキの立場は変わっていく。
 もう、漫画の世界などとは言ってられないほど溶け込み、混ざり合う。

 その変化は人との繋がりにも出てくるのだとカジキは知った。






 名称 / 大地の拒絶(セイントリンチ )

 主系統 / 放出系

 効果 / あらゆる物質をすり抜ける念弾及び念地雷を作成する能力。
     能力者がオーラをコントロールできる範囲内ならば自由に動かすことができる。
     起点となるのは能力者の肉体(主に足裏)からで、遠く離れている場所に発生させることはできない。
     制約というか、能力を実現させるために一つ発動条件がある。
      対象になるのは、能力者の害意に反応するもののみ(機械的な兵器などは破壊できない)。
     【無の境地】に達している人間の体はすり抜けていくことになる(害意に反応しないため無機物と同様の扱いになる)。

 制約 / この能力に一切の付与効果をつけることはできなくする。『使用方法の限定』

 メモ / 水の触手を操る念能力者との試合の一カ月後、さらなる修練によって、カジキの個別能力に加わることになった。

 ○○ / 具現化系の習得率及び威力・精度に+1%のボーナス






【パームはなんとなく……ほんとうになんとなく死ぬもんだと思っている人は挙手してくださいな♪】




 
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